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「あんたが今夜は寝かさないよなんてクサイセリフ言ってるの想像したら、本当に似合わなくて面白い·····」
口元を抑え、控えめながらも目を細めて笑う藤咲の表情に強く心を揺さぶられながらも、彼自身が今の状況を多少なりとも楽しんでくれているようで安堵した。
「そんな笑うことないだろ。ほら、着いたから降りるぞ」
そんな談笑をしているうちに、目的地へと到着し、麓の駐車場スペースに車を停める。
展望台までは少し歩くので階段状に整備されている山道を足元を灯りで照らしながら頂上を目指す。
静寂に包まれている木々の中を間隔をあけて後ろを歩く藤咲を時折声をかけて気にしながら登っていくと、途中で服を引っ張られる感覚を覚えて足を止める。振り返ると離れていると思っていた藤咲が真後ろに立っていて
彼の顔が懐中電灯に照らし出される。
大樹は喫驚のあまり「わっ」と声が出すと彼自身も驚いたのか眩しさで顔を顰めると身体を仰け反らせ階段を踏み外しそうになっていた。 慌てて腕を掴んで引き戻しては転倒は免れることは出来たが、安心したのは束の間「ひっ·····」という藤咲から引き攣り声が聞こえて、大樹は慌てて手を離して謝った。
「ごめん。危なかったから·····」と言ったところで恐怖心を抱いているものからしたら、言い訳に過ぎない。案の定、藤咲は「急に立ち止まるなよっ」と柳眉を逆立てては一連の流れを快く思っていないようだった。
藤咲の腕の感触を手に残しながら、星杏が拒絶も受け入れるなどと言っていたとはいえ、やっぱり藤咲に拒絶されることを考えるのは素直に凹むよな·····と思いながら登山を再開させていると再び裾を引っ張られる。
今度はゆっくり振り返ってみると、藤咲がジャケットの裾を掴んでいた。
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