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目が合うなり藤咲が「暗いし、はぐれたら困るから·····」とか細い声で訴えてきたので「ああ、そうだな」と頷いては平然と歩き始めたが、どうしても引っ張られている裾に意識がいってしまう。
微かに感じる藤咲の気配に自分が頼られていると実感しては嬉しさと愛おしさからくる庇護欲で胸がたまらなくなる。この手を繋いで引いてやれたらどんなにいいだろう·····。
そんな感情を伏せながら、ようやく頂上まで辿り着くと、眩く散りばめられた街の灯りが一望できた。大樹自身、あまり人工的なものに強く心を燻られることはないが、真に黒い空に瞬く星々と建物の明かりとの風景は綺麗だ。
「自分の住んでるとこにこんな場所あったんだな·····知らなかった」
背後にあった気配が隣へと移ると藤咲は、目の前の景色を見据えながら感心したように呟いた。テレビでも稀に取り上げられるくらい名の知れた場所ではあるが、藤咲のように普段から関心が向かないと知らないのだろう。
彼が世界各地で飛び回って見てきているであろう景色には劣るかもしれないが·····。
「ああ·····結構穴場らしいぞ。天体観測にも絶好の有名スポットだしな」
「こんな場所知ってんのにあんた何で振られるんだろうな」
「さあ·····多分、俺は彼女そっちのけで空に夢中になっちゃうからかな。大体の子は連れてきても最初は感動してくれるけど、本当に最初だけだから。長居してると飽きちゃうし、語ったら語ったでドン引きされちゃうし」
「ふーん。別に僕はあんたの話し聴いてて飽きないけどな。綺麗なものに飽きるも何もないだろ。そいつ感性がないんだよ。だから凡人のままなんだ」
相変わらずの切り返しの強さにドキリとするが、藤咲は藤咲なりに自分を慰めてくれているような気がして胸が熱くなる。
「感性がないって·····そんなことないと思うけど·····まあ、人の興味ってそれぞれだしさ」
過去な恋人を庇う訳では無いが、それで成長できたこともあるだけに全否定はできずにいると、お人好しのつもりかよ·····と藤咲に鋭く切り込まれては苦笑した。
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