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それでも僅かに頬を膨らませて自分の事のように怒っている藤咲がそこに恋愛感情がないにしても、嬉しくて彼のひとつのひとつの表情から目が離せなくなる。 藤咲ともっと近づきたいからこそ、本人には伝えなければならない·····。 空を扇ぎながら彼に告げるタイミングを見計らっていると「一度だけ·····行ったことあるんだ·····」と隣から頼りなく彼が口を開いたのを聞いて振り向くと大樹が「どこに·····?」と訊かずとも「心療内科に·····」と付け足してきた。 「あまりにもフラッシュバックが酷くて、何度か人前で弾く機会があった時、壇上を降りた途端、倒れていたから·····。でもダメだった·····。女性なら我慢出来る程度でも男性になるとやっぱり根本的なものだから·····敢えて男性のカウンセラーに頼んで、僕が駄目なことリストアップして徐々に克服しようとした。でもどんなに優しそうな医者でもそのうち手のひら返してきて、|宏明《あいつ》みたいに·····裏があるんじゃないかと思うと怖くて通うことも億劫になったんだ」 上腕を両手で抱え擦りながら身震いをさせる藤咲。自分はそんな藤咲にとんでもない発言をしたのだ。彼は彼なりに克服しようと動いていたのに無責任に専門医に頼めばいいなどと言ってよく調べもせずに提案をしてしまった自分が恥ずかしい。 「だから·····僕は·····あんたに期待したかった·····」 藤咲が意を決して告げてくれたであろうことが、強く腕を抱えている姿から読み取れる。 そこまで自分を信頼してくれるのは、悦ばしいことではあるが、藤咲にとっては枷となる感情を自分が抱いているだけに大船に乗ったつもりで頼りにしてこいなんて言えない。 大樹は「藤咲、落ち着いて聞いてくれるか?」と前置きをしては、生唾を飲み込むと強く決心をした。

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