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「藤咲·····俺、藤咲に話さなきゃいけないことがあるんだ·····」 研究の発表会より母親の前でヴァイオリンを弾く時よりも緊張しているかもしれない。 もしかしたら告げたことで藤咲から強い拒絶と軽蔑を受けるかもしれない虞がないと言えば嘘になる。 しかし、自分の気持ちを隠して誤魔化しながら藤咲と接することの方が彼を裏切っているという罪悪感で苦しむのは明確で、それならば一層のこと洗いざらい話してしまった方が自分の為、彼のためにもなる気がした。 三月初めの少し春の兆しが見え、微かに残す真冬のゆるやかに顔を掠める追い風に背中を押されるように大樹は藤咲の方を見据える。 「藤咲が不快に思うかもしれないけど俺、藤咲のことが好きなんだ·····だから、俺がお前に触るってことは下心も含まれていることを理解していてほしい·····」 自身を良く見せるために虚勢を張る必要なんかない。どうなってもいいから藤咲にありのままの気持ちを話す。 「そ、そんなこと急に言われても·····」 足元を照らす懐中電灯と遠い景色からの街の明かりだけでは彼の表情まではハッキリ分かるわけではなかったが、彼は口元に手を当て、戦慄かせては半歩後ずさっていた。 やはり藤咲に恐怖心を与え、戸惑わせてしまっただろうか。証拠にいつもなら威勢のいい悪態が返ってこなかった。 「混乱させて申し訳ないと思ってる。でも、お前に嘘はつきたくなかったんだ。裏切られたと思ってくれても構わないよ。俺は藤咲を恨んだりしないし、お前のこと見捨てないって言っておいて無責任かもしれないけど、お前が俺の存在が不愉快なら大人しく手を引くよ·····だけど、使命感とかじゃなくてお前の傍でお前を支えてやりたい気持ちは変わらない。だから藤咲が俺の気持ちを承知上で良ければ傍にいさせて欲しい·····」 全て藤咲次第だ。 藤咲は俺の気持ちを聞いて気持ち悪いと思っただろうか。宏明のようだと軽蔑しただろうか·····。 なら一層のこといつものように罵って、やっぱり偽善者の裏切り者だと俺の事を侮蔑してくれたら楽なのに沈黙というのは大樹の心をより不安にさせる。 返事をゆっくり待つつもりでいても「藤咲は俺とどうしたい?」と答えを促すことを問うてしまうのは、大樹自身も余裕がなく、表情が見えない分、藤咲の考えていることが全く分からなくて怖いからだった。 「僕は·····」

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