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大樹が誘導することでようやく開かれた口からは、あの食堂で交わした時と同様に「僕は·····」と何度も感覚をあけては、何か決心をして言葉を紡ごうとしているようにさえ思えた。 「····あんたと別れる時、いつも冷たくしすぎたかと思って後悔するんだ·····この間だって···僕が急に帰ってしまったからあんたに愛想尽かされてしまうんじゃないかって怖くなった·····。だから今日、あんたから連絡があって嬉しかった·····」 震える声音。ひとつひとつゆっくりではあるが藤咲が伝えようとしてくれている。 少なくとも俺の告白によって藤咲が不快な思いをした訳ではなさそうで安堵した。 藤咲はバッと顔をあげた後ゆっくりと此方へと近づいてくると距離にして数十センチのところで足を止める。暗がりで分からなかった藤咲の頬に涙が伝うっているのが目が止まっり、大樹の右手は自然と藤咲の左頬へと伸びていた。触れた瞬間に身体を震わせ、双眸が固く結ばれるのをお構い無しに親指で拭う。 目の前にいる藤咲が愛おしくて、触れたくてたまらなかった·····怖がられたとしても·····全身で自分は彼のことが好きなのだと教えてやりたい。 壊れ物を扱うように優しく頬に触れてやると藤咲は微かに震えた声音で話を続けた。 「あんたが抱きしめてくれたとき·····凄く怖かった·····怖かったけど、温かくてあんたの腕の中にいるうちに安心したんだっ。·····だから·····あんたとなら·····僕は克服できるかもしれないと思った·····。でも、分からないからっ·····きっと僕は自分の感情についていけなくて、あんたを傷つけてしまう·····。それが怖いんだ。だけどあんたに嫌われたくない·····それでもあんたは僕のこと·····見捨てないでくれるのか·····?」 「もちろん、藤咲のこと全部受け止めるから·····」 大樹が深く頷くと藤咲は右手の袖を掴み、俯いた。どんなに藤咲に傷つけられようが、きっと自分は藤咲のことを嫌いになれない気がした。 当たりは強いけど藤咲なりの優しさで自分を肯定してくれる彼が好きだ。 ピアノを心底楽しそうに弾いている彼が好きだ。 そして、あのダイヤモンドを散りばめたような宙に劣らないくらいの彼の笑った顔が好きだ。 だから、彼の苦しさを自分も分かち合いたいと思えた。 一歩を踏み出そうとしてくれる彼の手助けをしたいと思えた。俺に藤咲が自身をくれたように藤咲が俺を必要としてくれるなら何があろうとも·····。

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