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背中から緊張感を感じ取れることから、多分藤咲も勘づいているに違いなかった。
長山の家と会うのは大きな地雷を踏むということを·····。
「友達です·····だから、彼を送ってから必ず家に向かいます。高崎さんもいるんですよね?先に戻っていてくれませんか?」
顔を伏せている藤咲を隠すように大樹が麗子の動きに合わせて上体を動かしては、上手くこの場を収めまるように働き掛けてみたが、そう簡単にことは進まなかった。
「大樹さんのお友達なら尚更紹介してくださる?」と友達と聞いて余計に興味を示してしまったのか過干渉な麗子は引き下がらない。
「彼もこれから予定あるみたいなのでまた後日改めて紹介します····。麗子さんが心配されるような悪い方ではないので··········」と大樹もここは引き下がる訳にいかずにいると、藤咲は急にスっと立ち上がり、麗子に向かって黙礼をした。
「長山麗子さん、ご無沙汰しております。藤咲の息子の藤咲尚弥です。その節は父が大変ご迷惑をおかけ致しました」
脱いでいた手袋をいつの間にか身につけ、機敏に腰を曲げると再び謝罪の念を込めて謝礼をした。上下関係が厳しいこの業界、藤咲にとっては麗子は引退した身とはいえ、あくまで目上の存在。
幼少期から礼儀正しい藤咲の姿を目にしていたからいつなん時も、彼が気丈に振る舞うことが出来ると分かっていた筈なのに、先程の接触からもトラウマに怯える藤咲の印象が今は強いせいか大きなストレスを与えてしまうのではないかと警戒して母親に隠そうとした自分に恥じる。
父親のことは、本人達の問題で藤咲自身被害者であるのに彼女には怒りの感情を表さずに藤咲は冷静に前を見据える。それどころか、下出に出ているのをみて酷く胸が痛ましかった。
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