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「そうね、貴方の父親が貴方というものがありながら、ふしだらに宏明さんを誘惑したから宏明さんはピアニストの道を絶たなきゃいけなくなったのよ」
麗子は藤咲だと分かると一瞬にして形相が変わり、容赦なく彼を彼の父親を責め立てる。
宏明がピアニストの道に進めなかったのは彼の父親のせいじゃない。
本人の元々の才能や努力も必要ではあったが何より、褒めない父親と息子を哀れんで甘やかすあまり、知らぬ間に彼自身に出来損ないの烙印を押し付けていた麗子によって彼の心を閉ざしてしまったのが要因であった。
そして、そんな両親の教育を受けた宏明の欠けていた心を埋めてくれたのは光昭さんだった。藤咲さんに誉められて、優しさに触れ、自分を認めてくれる人はこの人しか居ないのだと思わざるを得なくなった。そして、彼の境遇を知っていた光昭さんもまた、心寂しい想いをしている宏明を突き放せなかった。
両親がもっとまともな愛情を注いでやればこんなことにはならなかったのでは無いかと思ったところで、どんなに悔いても過去は変わらない。
「行き場がなくて日の目を見ない裏方の仕事だなんて·····可哀想で仕方がないわ。そのせいで卓朗さんにも追い出されたのよ·····私はあなた達一家を許さないわ。そんな貴方がなんで大樹さんといらっしゃるのかしら?」
藤咲の方を横目で見ると麗子の高圧的な態度に困惑しているようで、両手の指を組んで完全に黙り込んでしまっていた。まるで藤咲だけに責任転嫁するような物言いに腹立たしかったが、お店の中で声を荒らげて感情を表に出すわけにはいかず、グッと堪える。
相変わらずの母親の主観的な考えには賛同できないと再認識させた。
藤咲が言葉を発することができない分、自分が麗子を納得させてやらなきゃいけない·····。
彼を守るためにも·····。
麗子の考えを改めさせるためにも·····。
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