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「宏明兄さんのことはありましたが、藤咲くんは関係ありません。寧ろ被害を受けた方です」
大樹がそう訴えてもなお「被害?」と蔑み笑う彼女。
「麗子さん。宏明兄さんは藤咲くんに酷いことをした旨を電話で説明しましたよね?」
藤咲が宏明に乱暴をされそうになったパーティの話を大樹が骨折することになった経由を嘘偽りなく正直に話したが、麗子は納得していないようだった。それだけではなく、彼女は高崎からそれ以前のことだって聞いている筈だ。
「ええ·····聞いたわ。でもそれは、貴方のせいなのよね?貴方が光昭さん同様に誘惑して宏明さんを惑わせたからよね?ほんと容姿も佇まいもお父様に似ちゃって宏明さんを困惑させたんでしょ?穢らわしいったら·····」
「僕が穢らわしい·····」
「そうよ。そうやって今度は大樹さんを誘惑してるじゃない。さっき貴方と大樹さんが手を取り合ってる姿、私が見てなかったとでもおもってたの?」
麗子の存在に気づいていなかったから、完全に気が緩んでいた。目の前に現れた時、もしやと過ぎらなかった訳では無いが、やはり先程の藤咲とのやり取りを遠巻きながらに見ていたらしい·····。
「藤咲が俺に取り入っているなんてことはありません。俺が俺の判断で藤咲と関わってるんです。さっきだって俺から藤咲の手を握りました。藤咲は何もしてません」
麗子は言葉の槍で容赦なく藤咲に突き刺してくる。その度に先程まで、凛としていた瞳から光が消えていくのが分かった。
藤咲にこれ以上麗子の言葉を聞かせてはならない·····。
大樹は必死に弁護しようと訴えかけるが麗子の怒りは心頭する一方で「親子共々何処まで卑劣なのかしら」と藤咲に目掛けて息を吐くように藤咲に向かって悪意ある言葉を投げる姿を見て、これ以上二人を同じ空間に置いてはいけないと察した大樹は、強引に麗子の肩を抱き回れ右をさせると背中を押した。
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