148 / 292

18-11

「それにしても君も大変だね」 客がいない静かな店内。 天井から長く吊り下がった筒状の暖色系の照明に照らされ、グラスの氷が音を立てる。隣の筒尾は苦笑を浮かべながらも手に取ったグラスに口をつけていた。 藤咲が目を覚ました後、タクシーを呼んで藤咲を自宅へ帰らせようかと思ったが、本人が首を横に振ったので店のソファ席に座らせて休ませることにした。だからと言って自分が巻いた種によって筒尾が早々に閉めた店の後片付けをしている姿を黙って見てることはできず、藤咲が休んでいる間、片付けを手伝うことにした。 客席に残っていたグラスやお皿を片付けると、流し台へ持っていく。筒尾の店の他にも深夜のファミレスでアルバイトをしていることもあって作業は手馴れたものだった。洗い物をしていると筒尾に「演奏だけじゃなくて、うちの店にもバイトで入ってくれたら助かるなー」なんて褒められては筒尾の元なら楽しそうに働ける気はするがやっぱり後ろ盾にいる麗子の存在は大きく、苦笑いで返す。 そんな大樹の様子を察したのか「でも麗子さんに怒られるか」と少しガッカリした表情を見せては全ての片付けが終わった頃には21時を回っていた。時計を確認してはそろそろ藤咲を帰してやらなければと思ってソファに近寄ると藤咲は背中を向けて横になり、寝息を たてていた。 先程失神していた彼を無闇に起こすのも躊躇われ、途方に暮れていると筒尾に「藤咲くんが起きるまで、一杯付き合ってくれるかい?」と誘いを受けたので藤咲の体に大樹のコートを掛けてやり、カウンターで一杯だけご馳走になることにした。 麗子とのことで頭を抱えている今、途轍もなく呑みたい気分だったので丁度良かった。

ともだちにシェアしよう!