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「親が自分の演奏を態々聴きに来るなんて 肝が冷えるだろ?」 後輩と言っても筒尾が麗子とどれくらいの仲なのかは分からないが、昔からの知り合いなら母親の人となりは理解しているのだろうか。大樹は曖昧に頷き「ええ·····母親は厳しい方なので·····」と言葉を濁しながらも答える。 「やっぱり。麗子さん、大学にいた頃も大分ストイックな所があったから。弦を操る魔女だーなんて影で呼んでいる奴もいたな。でも久しぶりに会って少し変わった印象を受けたよ」 「それはどういう意味で·····」 筒尾の話から厳しい麗子は昔も今も健在のようで納得できたが、「印象が変わった」という言葉に疑問を抱いた。普通なら若い頃は厳しかった人が歳を重ねて丸くなっただとかの例があるだろうが、麗子の場合見た目からも全くそんな様子はない。 昔の親の事など話される機会など全くないだけに、筒尾の話には自然と興味が沸いた。 「なんだろう·····昔はさ、彼女自身もだけど周りにも厳しかったんだよ。俺もヴァイオリンやってたんだけど、音がブレるとすぐ指摘されて睨まれるもんだから、恐ろしかったよ。でも、彼女が教えてくれることは的確で厳しさの中に愛は感じていたよ。だから彼女から教えて貰う価値はあった。だけど、君を見ている麗子さん、見定めをするように酷く怖い顔をしていたからさ。自分が肘を壊した分、君に期待を寄せてるんだろうなーって」 幼い時から感じていた麗子の期待から来る威圧感。どんなに期待を寄せられたとしても大樹の気持ちは変わらない。藤咲のことも、ヴァイオリンのことも。 「でもさ、大樹くん見てるとそんなにヴァイオリン好きじゃないよね?確かに上手いし、最近は少し楽しそうな姿はみえたけど、義務的なものは前から感じてはいたよ」 プロの道を辞めても執着してくる麗子に嫌気を差しながらも完全に突き放すことができずにダラダラと続けてきた。表には出さないように騙しながら繕っていたつもりだったが、わかる人には分かってしまうのか·····。

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