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「筒尾さんに見透かされてたなんて、お恥ずかしいです·····こんな半端者がすみません·····」 大樹は身を改め膝に両手を突いては深くお辞儀をした。みんな音楽を楽しみにお店に来ているのだと言うのに義務感で弾き続けているなんて無礼極まりない。 「俺、正直音楽の世界に執着心がないんです。プロになって賞賛されたいだとか、この世界でもっと磨きをかけたいとか思わなくて·····。だからってヴァイオリンが嫌いかと言ったらそれも違うんです。そして俺、ここ最近分かったんです、来ている誰かのために弾くよりは、俺はある人の為だけに弾きたい気持ちが強いんだってことに····」 「それって·····藤咲くん?最近、よく来てくれてるみたいだから、結構店では噂になってるよ。藤咲くんは大樹くんを見に来てるんじゃないかって」 筒尾らは客席のソファに横たわっている藤咲の方に目線を向けると大樹に問う。 音楽をやっている人間なら知らない人はいない藤咲の有名ぶりに感心しながらも、常に特別な雰囲気を漂わせている彼にやはり気づかない人はいないのだと納得した。 筒尾に完全に言い当てられてしまった気恥しさからか、酔いが回ってきたからか顔が熱くなり始める。ほろ酔い気分と恥ずかしさも相まってはグラスを両手で包むように持っては、お酒を眺めながら話を続ける。 「そうです·····彼と笑い合いながら楽しく弾けてればそれでいい。下手くそな俺の演奏を聴いて笑ってくれるならそれでいい程度なんです。でもそれじゃあ、麗子さんは納得いかないみたいで、強く反発することも出来ずにここまで来てしまった·····」 藤咲のことを想いながら話す。 俺の事を詰りながらも、少し頬を染めながら演奏の感想を話してくれる藤咲。 俺が弾く事を微かに期待を寄せている藤咲。 藤咲に下手くそだとか詰られても彼が笑ってさえいてくれたら·····楽しんでくれているのならそれで良かった。

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