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少しだけ世間話をした後、「好きなときに帰って大丈夫だから」と言い残して、筒尾は事務作業をしに裏の事務所と引っ込んでしまった。 大樹はソファで眠っている藤咲に近づくと俺のコートをギュッと握り、背中を丸めている姿が、猫を彷彿とさせて、その背中に触れたくなる衝動を抑えながらコートの上から肩を軽く叩いて起こしてやる。 コートとは言えども、俺のものでもこうやって藤咲に触れてもらえてる·····。 暫くしてから身体がピクリと微動すると、仰向けになった藤咲と目が合った。切れ長な目尻に黒々とした丸い瞳。窮地に立たされて藤咲のシャツのボタンを外したのは俺だったが、襟元から見える色白の首筋を見て胸がザワりとした。先程のウイスキーの酔いが回ってきたのか·····身体全体から急速に沸き立つ熱。 首筋にキスをしたら藤咲は怒るだろうか·····。 白くて透明な彼の素肌を汚すように自分の跡をつけたい·····。 怒られてもいいからしたい·····。 藤咲に触れたい·····。 自分は完全に藤咲に欲情している。 大樹は徐々に首筋に顔を近づけると、藤咲は一切の抵抗もせずに唇を頑なに結んでいるだけだった。 これもリハビリの一環だとして、我慢しようとしてくれているんだろうか·····。 腕を掴んでくる藤咲の手が震えているのが、伝わる。きっと恐怖を感じているのか、耳元に届く音にならないほどの掠れた声。 まだ素手ですらクリアしていないのに、この辺で止めておいた方がお互いの為だと頭で分かっていても大樹の身体は止められなかった。 薄く柔らかい皮膚の感触が唇にあたる。口を開き、歯を立てて甘噛みをしたところで「んっ·····」と予想外の甘い息遣いが聞こえて来て、我に返えると、顔を上げた途端に力強く肩を押されて、大樹はその反動で仰け反った。 「気持ち悪いっ」 上体を起こした藤咲が、襟元を両手で合わせると凄まじい剣幕で此方を睨みつけてくる。それは当然の反応で本人の了承もなしに自分の欲情に従って彼の首筋にキスをしようとしたからだ。

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