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大樹は衝動的にスマホをソファに放り投げると袖口を先程よりも強い力で振り落とし、ソファに膝を乗り出すと藤咲の手首を引っ掴んだ。 手袋を左手で外して、傷だらけの指に口付けをすると藤咲の拒絶の声がした。引き攣る声を無視して何度も唇を落としては、掌に舌を伸ばして音を立てながら舐めていく。 指一本一本にキスをしては舌を這わせると鉄まじりの味がした。藤咲は「うっ·····」と声を漏らして腕を引く動作を見せるものの、大樹の力で簡単に引き寄せられる程の弱い抵抗が心底で嫌がっているようには見えなく、夢中で食らいつく。 時折身体を震わせる藤咲に目線を向けると涙を浮かべながら酷く顔を歪ませて、貶むような視線で自分を見ている姿が堪らなくなった。 そんなに軽蔑するならさっきみたいに俺の事なんか張っ倒せばいいのに唇を一文字にして我慢しているのが余計に腹立たしい。 藤咲の指の輪郭をなぞるように、口に含んで中で舌を這わせながら人差し指をしゃぶる。「いやだ·····」と藤咲が漸く振り絞った声を上げたところでやめてやると、大樹は手首に力を込め、顔を近づけた。 「したい·····って言ったらお前はどうするんだ?させてくれるのか?そんな手指ですら嫌そうな顔してるくせに俺を受け入れる覚悟、お前にあるのか?」 「··········っ」 大樹が鋭く切り出すと藤咲は黙り込んでしまった。じわりじわりと溢れ出す藤咲の涙に責める気持ちも失せ、大樹は何も応えない彼の手を乱暴に離した。 結果自分の感情が邪魔をして彼を変えてやることも優しく支えてやれることもできない。 「もう、いいよ。タクシー呼んでくる」 ソファの上に放り投げたスマホを拾い、店の入口へと向かってはタクシーを呼ぶ。直後に、バタンと御手洗の扉が閉まった音がして虚しさと後悔で胸が痛くなった。 こんな乱暴に扱いたい訳じゃないのに腹の虫が収まらず、冷たく言い放ってしまった·····。 自分のトラウマと必死に戦っている藤咲にあんなことを問うなんて行動を起こすなんて、正気の沙汰じゃない。 自分の優しさなんて偽善に過ぎない。彼を好きになったことで余計に彼を苦しめてばかりなのだと痛感した。

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