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親との確執
「やっぱ、大樹の料理美味いよねー。まあ、渉太の手料理の方が格段の差だけどね。俺への愛が入ってるから」
ワンルームのこじんまりとした部屋に律仁を中心にして男三人で一つの長方形のテーブルを囲う。一人暮らしの家なだけに、テーブルも小ぶりなもの。
3人前の料理の皿は面積ギリギリ収まる程で、飲み物の一リットルのペットボトルのお茶は居場所を無くし床に置かれていた。
今まで比較的豊かな生活を送ってきていた
大樹にとっては、如何にも一人暮らしの学生な渉太の部屋が少し新鮮であった。
そして、そんな傍らで緩みきった顔で囃し立てる律仁と赤面させては「先輩の前でやめてください·····」と慌てふためく渉太。こんなやり取りも既に見慣れたものだ。
「律仁も手料理して渉太に食わせてやったらどうだ?ポイント高いぞ、料理のできる男は」
惚気ける二人を冷静な心で横目にし、茶碗を持ちながら食を進める。律仁が料理が差程上手くはないことは、承知の上で提案してやると「だと思うじゃん?」と大樹の見解を打ち消してきた。
「出来ないことはないよ。この間、料理番組出てチャーハンは作ったし」
自信ありげに威張る律仁。大樹はあまりテレビ番組を観ることがないので律仁の出ている番組を逐一チェックしている訳では無いが、料理番組に出演した程度で果たして上達するものなのかと疑問だった。
「あの名司会者の|柾井《まさい》さんのチューボウですよ、ですよね。俺、それ見てました」
律仁の恋人でもあり、律のファンでもある渉太は、本棚には大樹にもアイドル時代に何度もお世話になっていた月刊の雑誌が数字が若い順から綺麗に並べられていることから、律のことは知らないはずもなく、当然のように話が通じている様子だった。
「そうそう、何だかんだ俺が余計なことして無星にしちゃったけどねー」
「余計なことって何したんだよ」
悪びれもなくヘラヘラと笑っている律仁の一方で渉太が苦笑いしたので、相当悲惨な結果だったんじゃないかと予想される。
「砂糖と塩間違えて入れちゃって、甘いチャーハンできちゃった。まあ、でも料理バラエティだから柾井さんもプロデューサーさんも笑って許してくれたよ」
お茶目に舌を出して照れ笑いで誤魔化すが、まさかの処方的なミスをテレビ番組でやらかすとは、笑いを通り越して呆れるレベルだ。
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