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拗ね散らかして口を窄める律仁を宥める為とはいえども、かつて好意を寄せられていたことのある相手から断言されてしまうのは寂しいよな、悲しいような·····。元カノに「あなたにはもう未練はないの」ときっぱり振られたような苦い気持ちになる。
勿論、以前と変わらず渉太に抱いている感情は変わらないし、彼の言い分も間違っていないのは事実であるんだけど·····。
そんな渉太が宥めても尚、半信半疑の律仁は「本当に?渉太が好きなのは俺だけ?」とにじり寄って近距離で渉太の顔を覗き込んでいた。
最初は本気で疑いにかかっていると思っていたが、瞬間に律仁が不敵な笑みを浮かべたことから、疑っているフリをして、渉太が照れると確信してやっているのだと悟る。
そんな律仁の悪戯心を知らず、唐突な詰め寄りに狼狽えている渉太は肩を竦めながらもこくりと頷き、「律仁さんだけです·····」と赤面させ弱々しい声音で答える。
そんな羞恥心で今にも蒸発してしまいそうな渉太に追い打ちをかけるように、律仁が彼の頬にキスをした。
渉太は一驚すると顔を俯け、「律仁さん!!」と怒りながらも照れている姿が本人も満更ではないような気がして、傍からしたら途轍もなく目を逸らしたくなる。
このまま静かに退散した方が良いのでは無いかとさえ思えてくる。
「おい、イチャつくのは構わないが俺もいるんだけど」
諸事情で此処に置いてもらっている身の上とはいえども、見ていられない状況に大樹は大きく咳払いをして自分の存在を示すと、大樹の咳払いで我に返った渉太は頭部から汗が飛んでいきそうなくらい「すみません」と何度も頭を下げて謝っては耳朶を真っ赤にしていた。
律仁は律仁で「ごめんごめん。渉太が可愛くてさ」と何事もなかったかのように、元の位置へと座りなおす。俺の前だから警戒心が緩んでいるのか、人前でも関係なく恋人ちょっかいを出せる律仁の鋼のメンタルには度肝を抜かす程だ·····。
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