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前を見据え、「ええ、まあ·····」と言葉を選んで発することへ躊躇いを感じているようだった高崎に「遠慮なく言っていただいて構いません。高崎さんの意見が聞きたかっただけなので」と添えると漸く口が開いた。
「·····尚弥様には魅力がありますから·····好意を寄せることは悪いことだと思いません。大樹様が何方を選ぼうとも大樹様が本気で愛しているお方なのであれば·····その方と幸せでいられるのであれば·····幼い頃からお世話させていただいた身としては、それ以上に嬉しいことはありません。しかし、麗子様の仕えとしては、彼女も夢を絶たれてから悲痛な想いをされている身の上、彼女の気持ちも汲んでいただければと思ってもおります」
自分の思想をちゃんと持ち合わせていながらも長年仕えてきた麗子に対する配慮も忘れない高崎に言葉を失う。俺らにとっては遠ざけたい存在だとしても高崎にとっては家族よりも長い時間を共に歩んできた|女性《ひと》。
どんな彼女になろうとも見捨てることのない高崎から大樹が見てきたよりも計り知れない情を感じた。
「人一倍お気遣いに長けていらっしゃる大樹様ですから·····」
筒尾が話してくれたことを思い出す·····。
彼は麗子のことを厳しい人だと言っていたが、そこに愛情を感じていたとも言った。
それまでは本気で音楽を同士を愛していたのだろう。
いつからか、大好きな楽器に触れ追いかけていた夢が急な腕の故障で絶たれた彼女の絶望感。麗子も藤咲がピアノに触れることに躊躇い苦しむように、触れても思うように弾くこともステージに上がることも出来ない状況に苦しんでいたのだろうか·····。
そして·····自らが成し遂げられなかった音楽の道を大樹に託すように向けられた、焦りや威圧。
麗子自身の人生の中でヴァイオリニストという選択肢が無くなってしまった底知れない絶望を味わったことは気の毒だと思うが、同情で彼女の言う通り大樹も続けるのでは今までと変わらない。自分は自分のやり方で麗子に認めてもらうしかなかった。
麗子のために生きるだけの人生ではないのだから·····。
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