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卓郎の自室へと呼び出されては、灰色の2,3人座るには充分なソファに卓郎が、ガラスのテーブルを挟んで客間用のソファには大樹が向かい合わせに座る。腰をかけるなり、持ちかけられた内容は大樹の予想が的中し、年明け前の伊川先生主催のパーティの夜のことだった。 卓郎がパーティに宏明と大樹が行っていたと知ったのは、大樹に唯一話しかけて来た中年の男性と卓郎が会う機会があり、話題に出てきたのだという。 大樹が行っていたことは麗子の命令だと卓郎自身も判っていたが、宏明が来たことに関して不可解に思った卓郎は俺にあの日あったことと、宏明の動向を詰め寄ってきた。 あの日の出来事を一言一句話せば、卓郎は追い出すだけでは済まさず社会的な制裁を与えそうな気がして、漸く更生し始めている兄を追い詰めるようなことをしたくない。 大樹は調律師として活動をしていること、その関係で来ていてたことだけだと半分嘘の話をしてた。 しかし、一番の問題は藤咲の事だった。 どうやら中年男性は藤咲と宏明が連弾をしていたことまで話してしまったらしい。 「あいつはまだ藤咲のやつと関係を持っているのか」と宏明に対しての疑念から始まり、 最終的には縁を切った仲、宏明が未だに藤咲と関わりを持ってようがいまいが、「あの落ちぶれなんぞ、どうでもいい」とぞんざいに扱っていた。 やはり父親の宏明への侮蔑は今も昔も変わらないようで聞いていて虚しくなる。 その流れから徐々に話の矛先が俺へと変わり始めたときは全身が凍りついた。 何処で誰が見ているかは分からないもので、俺と藤咲が肩を抱いてホテルのエントランスへ向かうところ目撃した人がいるらしく、それを聞いた卓郎は大樹に確信をついてきた。 大樹自身も藤咲とのことは卓郎とも話し合うつもりでいたので、卓郎の前で心臓が萎縮する中、麗子同様にこれからもこの先も藤咲と関わり続けることを告げると、卓郎は「それはどういうことか、お前も分かっているよな」と遠回しに絶縁を諭される。 彼にとって優先順位は自分にとって害を与えてくるものか、そうではないかでしかない。 芸能人でもある以上、余計なゴシップで自分の活動の妨げになるのを酷く嫌う。藤咲と関わるのであれば息子であろうと躊躇いなく縁を切り捨てにくるのは当然だった。 大樹はここで縋る理由もなく頷くと、卓郎名義で借りているマンションを引き払うこと、この先の学費は己で払い、一切長山の敷居を跨がないことを条件に通う許可は得られ、卓郎との話し合いは淡々と終わった。

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