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―――――――――――――――― 先程まで部屋の中心で夕飯を囲んでいたテーブルを片付け、同じ場所に敷かれた布団に潜り、仰向けに寝転がるとただぼんやりと天井を眺めていた。隣ではベッドで渉太が此方に背を向けて横たわっている。 一緒に食事をしていた律仁はというと、春クールのドラマの撮影で朝が早いからと言って深夜を回る前に自宅へと帰って行った。 「先輩、やっぱり俺と場所交換しますか?」 暗く静かな部屋の中で今後の家の事や藤咲のことを考えては寝付けずにいると、そんな大樹を察したのか渉太が話しかけてきてくれた。どうやら渉太の中では俺はお金持ちで日頃上質な寝具で休んでいると思われてるのか、床で寝転がる煎餅布団だと眠れないのだと思ったらしい。 就寝に至る前にもベッドに眠るよう勧めて来たので流石に後輩とはいえ、家主の寝床を奪うようなことができず、布団で寝ると頑なに断った。 「ありがとう。大丈夫。少し考えごとをして眠れないだけなんだ·····渉太は気にせずに眠っててくれ········迷惑かけて本当にすまない」 「迷惑だなんて·····俺の方こそ先輩に助けられてばかりです。だから恩返しのつもりでいてください」 掛け布団が擦れる音がし、渉太が此方に身体を向けてくる。ここ最近の出来事と漫画喫茶で充分に睡眠が取れていないせいだろうか、渉太のその優しい声が心遣いがやけに胸に染みて目頭が熱くなる。 「やっぱり·····お前といた方がきっと藤咲は幸せなんだろうな·····」 「それは·····」 困らせると分かっていてもつい言葉に出てしまう。俺といる時よりも、渉太といる時の藤咲は何処か安心しているように感じる。 キャンプのときに服屋でみた彼と渉太との距離感に警戒心のようなものは見られなかった。 俺といる時の藤咲は偶に怯えたような目で見ているのはきっと自分のせいだ。「好きだ」なんて言ったから·····触れるなんてことをしたから·····。自分に歯止めが利かなくなり、一時の感情で腹を立てては彼を怯えさせ、強迫症状を悪化させるように促してしまった。 彼に嫌われる覚悟でいても、彼を受け止める気でいても、彼を傷つけ刺激するようなこと事をしていい理由にはならない。やはり藤咲を目の前にすると沸き立つ感情と本能的なものに抗うのに精一杯で余裕すらみせられない自分が藤咲を余計に苦しめている。そう思った矢先の、心を渉太にだけは許しているのが少し羨ましく卑屈になった発言。なんて自分は醜いんだろう·····。 「ごめん·····失礼な発言した·····忘れてくれ」 返答に困っている渉太に発言を訂正するように謝る。

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