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「俺、尚弥と同じ学校にいて同じ時間を過ごしてきた筈なのに、彼の抱えているものに気づいてあげられなかったんです。それどころか自分だけ傷ついたって被害者面してて·····尚弥だって苦しんでいたのに、俺、尚弥といる自分に酔って優越感に浸ってただけでちっとも彼自身のこと見えてなかった。彼の内面をもっとよく知ろうとしなかったんです。でも先輩は違いますよね。ちゃんと尚弥の心と向き合ってます····」 「それはどうだろう·····俺って意外と欲深いんだ。一時の自分の感情だけで動くこともあるし·····藤咲の前では余裕なんてなくなる。結果的に自分本位になってしまうし、それが藤咲を余計に混乱させてしまってるんだよ·····」 あの時の歪ませた藤咲の顔が脳裏に焼き付いている。 思い返せば、首筋に落としたキスも夢中で舐めまわした指も強く抵抗しなかった藤咲は俺に応えようと耐えようとしてくれたのかもしれない·····。 それを傍から無理だと決めつけて報われない心に苛立ち、藤咲に投げやりな態度を取ってしまった。俺の方こそ藤咲を傷つけてしまったことに変わりない。決別したって血は侮れないのだと痛感しては深い闇へと落ちた気分だ。 恐る恐るだけど自分の手に素手で重ねようとしてくれる藤咲。 俺が嬉しいと言ったら「頑張ってみる」と耳朶を真っ赤にさせながら告げてきた藤咲。 冗談を言うと皮肉まじりに、でも楽しそうに応えてくれる藤咲。 藤咲から零れる表情ひとつひとつが愛おしい。愛おしいから大切にしたい·····。だけど、もっと顔を歪ませて壊れるくらい愛したいと思ってしまう欲が、藤咲を困惑させる悪循環が生まれる。 なら一層のことこのまま藤咲から連絡が来なければ触れずにいる選択も必要だと思えた。 藤咲のことを考えれば考えるほど負の感情が湧いて出てきてしまい、大樹の心中に引き摺られるように空気も澱んでいく。親とも決別して家もなくて後輩に頼ってばかりでそんな自分が情けない·····。 「尚弥、いまベルギーですよね?」

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