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そんな消沈とした空気の中で隣で影が動く気配がして頭をベッドの方へ一瞬だけ向けると渉太が上体を起こして、此方を見下ろしていた。 「ああ、2週間前から現地入りしてる筈だ」 この後聞かれる言葉が何となく予想が出来た大樹は、真面に渉太の顔を見ることが出来ず背中を向けたまま話続ける。 「観に行かないんですか?」 「連絡すら来てないのに俺が勝手に行けば藤咲の迷惑になるから、俺はいいんだ·····」 どうしてやるのが正解なのか分からない·····。 藤咲が望むのであれば、一生離してやる気はなかった。しかし、藤咲の方から離されてしまったら、俺はただ黙って去っていくのを見送るしか出来ないのだろう·····。 「迷惑かなんて·····そんなの分からないじゃないですか」 自暴自棄になっている大樹に喝を入れるように渉太は身体ごと此方を向けてくると真剣な表情で大樹に訴えてくる。 「先輩が考えたところで尚弥の心は尚弥にしか分かりません。尚弥が先輩の行動に困って連絡して来なかったとしても、それが先輩を拒絶する理由とは限らないです。それにもう会えないかもしれないって·····」 「それは本当か?」 藤咲にもう会えなくなる·····。 音信不通になった以上、彼は俺と関わる気はないのだと諭していても、途端に焦りのようなものが差し迫ってきては鼓動が警鐘を鳴らす。 「·····このブリュッセルでの公演が終わったら日本にいるより、ヨーロッパに戻って生活するほうがいいかも·····って話していたの聞いたから·····。尚弥はもっと複雑なんです。自分の好きを認めるのに誰よりも心を削って自分と戦ってるんです。先輩のことも·····きっと受け入れようとはしてるんじゃないかな·····。だから先輩には簡単にめげてほしくない·····掴んだ手が尚弥から離されたとしても何度も掴みに行って欲しい·····じゃないと尚弥が本当に寂しくなるから·····先輩はこのままでいいんですか·····?」 掛け布団の端を強く握り、渉太の問い掛けに応えず強く瞳を瞑った。 いいわけない·····。 あの綺麗な星空の下で俺に打ち明けてくれた藤咲の言葉は本当だということは、あの場所にいた時、肌で感じていた。 だから自分は己のことなど二の次で藤咲のことを全力で受け入れようと決意したのに。 俺が欲を顕にしたことで藤咲に大きな不信感を与えてしまったことには変わりない。 結局自分も藤咲に求めている·····。 俺の事を受け入れて欲しいと·····。 好きな人を前にするとこんなにも自己のコントロールが効かないものだっただろうか·····。

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