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傍にいたい·····
海外には何度も渡航したことがあるが、ヨーロッパは十数年ぶりだった。
藤咲を追いかけて飛行機で12時間ほどかけて首都のブリュッセルまで到着した。 どうしてももう一度ちゃんと藤咲と話がしたい·····。
俺のことが、この想いがもう連絡を断ちたいほど不愉快になったのなら藤咲の言葉で直接聞きたかった。
ブリュッセル空港から市内へと電車で移動する。
駅構内から外に出るとお昼の便で飛んでから日本の感覚で言えば夜中にあたる。体感的には夜であるが、ベルギーの空はまだ明るく夕方であることに不思議な感覚を覚えた。これが時差と言うのだろう·····。
目的は藤咲でも普段見ることの無い景色の街並みや雰囲気の中に自分がいると思うと気持ちが高揚する。建築関係には詳しくはないが、彼の邸宅は数多く世界遺産に登録されているヴィクトリル・オルタが手掛けたというブリュッセルセントラル中央駅。
観光客が多いのだろう。大きな荷物を抱え行き交う人々の中で大樹は外観を眺めて感慨深い気持ちに浸りながらもホテルの方向を確認しようと振り返った時、足元に小さな衝動を感じるとブロントで髪を三つ編みに束ねた、3つくらいの小さな女の子がぶつかってきていた。
大樹にぶつかった反動で尻もちを突き、驚いてしまったのか大きな声を上げて泣き喚き始める。『ママーママー』と涙を流しながら訴えてくる少女。途端に周りからの視線を感じ、放っておくわけにもいかなくなった大樹は手に持っていたボストンバッグを置き、女の子を立ち上がらせると目線まで屈んでは『痛かっただろ?ごめんねー』と頭を撫でて懸命に宥めていた。
大樹が声をかけたことで叫ぶことはなくなりり、安堵した。そして、両手で目を擦りながらも泣き止んだ少女に『お母さんはどこ?』と問いかけた瞬間、口元がニヤリと笑ったのを見逃さなかった。
「えっ?」
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