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『ナオヤの友達だから、てっきり君もフランス語が話せると勘違いしてたよ。すまなかった』 『·····いいえ』 藤咲が何を話していたか分からないが、男の反応から大樹が英語しか会話が出来ないことを教えられたのであろう。 ダニエルはフランス語から英語へと言語を変えると『僕はダニエル・ウォンカ』と右手を差し出されて自己紹介してきた。大樹も左手を重ねて『·····長山大樹です』と名乗る。 『ナオヤの友達だと聞いてつい嬉しくてね。僕は日本が大好きなんだ。サムライや特に日本の城は興味深くてね、京都に訪れたときは感動したよ·····』 藤咲への嫉妬から勝手に敵視してしまった事が後ろめたくなるくらい大樹にも寛大に接してくれるダニエルに困惑する。 この人は一体何者なのだろうか·····。 藤咲とどのような関係なのか検討がつかなかったが、彼と一緒にいるのだから、ただの奏者や運営会社のスタッフ程度の人間ではないのは確かだ。大樹は朧気に聞いた事のあるような名前を思い出せずにいた。 音楽家の家系であるが、大樹自身が直接的に関わっているわけではないのでそこら辺は疎い。ダニエル本人に素性を訊くタイミングを伺っていたが男の日本に来た時の思い出話が 止まらず、大樹は終始適当に相槌を打っては聞いていた。時折、隣の藤咲を見遣ると深く溜息をついては話に関与しないとばかりにそっぽを向いている。 『ところで君は·····料理は出来るかい?』 『まあ·····それなりに』 『良かった。僕は日本の料理が食べたくてね。ナオヤに頼んだんだけど、彼料理が出来ないって言うからさ。やっぱり妻が作るのと日本人が作るのでは違うだろ?良かったら家に来ないかい?』 城の話から日本の食文化の話に変わり、唐突にお誘いを受けたことに驚いていると藤咲は流石に不味いと感じたのか今まで黙認していた二人の会話に割って入ってきた。

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