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向かいの藤咲は耳朶を赤く染めながら目を泳がせて困惑しているようで、彼の気持ちも考えず感情のままに行動してしまったのを反省しながらも、大樹の胸の内は興奮が冷めやらぬの状態だった。 「僕も·····あんたと会った日のこと思い出した·····純粋にあんたと弾くピアノが楽しくて弾いていた時のこと·····」 自分だけが想起して舞い上がっているかと思っていたが、藤咲も同じように思い出してくれていた·····。その事実が更に大樹の身体中の熱が上がるほど高揚したが、下手な解釈をして勝手に藤咲の気持ちを推し量ってはいけない·····。 きっと藤咲と俺との気持ちの矛先は全く別の方向であるから·····。 「そうか·····良かった。藤咲もそう思って弾いてくれていたって分かっただけで嬉しいよ。ありがとう·····」 俺が楽しいと思えたことを藤咲も同じ気持ちだっただけで充分だ。これ以上この空間を共にしてしまえば、また自分は気持ちを暴走させ、彼を苦しめてしまう気がした。終わるのであれば綺麗な形でいい記憶だけ残した方がお互いのためだ·····。 「じゃあ·····俺、戻るから·····」 藤咲が何かを言いだげにしていたが、余韻に浸れば浸るほど離れ難くなってしまいそうで大樹は、逃げるように椅子から立ち上がると足早に部屋を出た。 これでいいんだと、心の中で言い聞かせる度に先程の藤咲の穏やかな表情が脳裏に浮かぶ。彼のことを考えまいとしても、久々に抱きしめた藤咲の感触を無意識に追ってしまっていた。

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