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ダニエルに呼び出されでも尚、二人の前に出ることを躊躇っている尚弥に『誰かが入ってきてる音がしてね。明らかにソフィアじゃないって分かったよ。それに、さっきから植物が揺れてるのが気になってたんだ。ナオヤ、そこにいるんだろ?』と追い討ちをかけるように明確な推理を提示されて出ていかずには居られなくなった。 尚弥はきまりが悪そうに顔を俯けながら、大きな観葉植物の陰から体をスライドさせて大樹とダニエルが座るソファの前に指先を組んで立つ。 大樹は尚弥がいたことを想定していなかったのか、驚いたといった様子で目を見開いていたが、すぐさま俯かれてしまった。 『ナオヤ、タイキが困っているんだ。一緒に泊めてやってもいいだろ?君が病持ちなのは知っているが、連弾できるくらいの中なら気心知れて平気なんじゃないのか?』 二人の関係性が複雑な状況下であることを知らないダニエルは、なんの躊躇いもなく提案してくるが、尚弥自身もまた即答できる問いではない。 だけどここで僕自身も長山との相部屋を拒否してしまったらどうなるのだろう ……。夜も更け始めているころ、ダニエルはすでにアルコールが入っているので当然送迎なんか不可能。長山なら災難な目に合う覚悟でもタクシーを拾う選択をするだろう。長山が不憫な思いをするのは耐えられないし、できることなら助けてやりたい心が尚弥もあった。 自分が長山と同室を我慢することくらい……。 さっきだって我慢できたのだからできる筈だ……。 『いいよ。たかが寝るだけだし、あんたも移動で疲れてるだろ? それとも僕と一緒はイヤ?』 『藤咲……嫌じゃないけど、でもな。藤咲だって一人のほうが……』 長山は困惑したように苦笑を浮かべると何としてでも回避しようと弁解してくるが『じゃあ、決まりだ』と半ば強引にダニエルが話を進めてしまう。 『ナオヤ部屋を案内してやってくれ。タイキも今日は料理振る舞ってくれて感謝してるよ。今日は君も疲れだろ?早く休むといい』 長山の意見など聞く耳を待たずに、ダニエルは満足げに笑みを浮かべて彼にお礼の言葉を述べるとソファから立ち上がり、長山と僕の肩を交互に叩いてリビング奥の寝室の方と行ってしまった。 長山はダニエルの去っていく背中を見届けると頭を抱えて深いため息を吐いていた。

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