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「まあ…いいよ。お前の言う通り寝るだけだしな。明日はダニエルさんに頼んでホテルに泊めてもらうよ。今日だけの辛抱な?」 表面上では優しい笑顔にすぎないのにどこか急に距離を置かれたような気がして心憂い気持ちになった。このまま黙って頷いてしまえば長山が本当に離れていきそうで不安に駆られる。今までだってそうやって何度も長山を煽って引き留めても上手くはいかなかったのに……自分で口先では長山と離れることを望む発言をしていても心の底ではそんなことはしなくないと嘆いていた。 この手に自ら触れられたらいいのだろうか……。 今まで長山に強引に触れられてきたのだから耐えられないことはない。 尚弥は恐る恐る長山の左手に己の傷だらけの右手を伸ばした。 緊張からか煩く警笛のように鳴り響く心臓に気休めで空いた左手を当てて落ち着かせながらも長山に近づいた。そんな尚弥を察した長山は、黙って手元を動かすことなく眺めている。 大丈夫…大丈夫…長山となら……。 指先と指先が掠れようとしたとこで長山がぐっと近づいてくると「いいのか?」と低い声で囁いてきた。尚弥は突然の接近で驚きのあまり息をするのを忘れると喉を引き攣らせて、近づいた手を引っ込めてしまった。 「お前が触れば俺は勘違いする。この状況ならお前を犯すことだってできんだぞ?」 どこにも触れられてすらいないのに長山からの重圧だけで体が強張る。 《《犯す》》という単語がトラウマを呼び起こし尚弥の身を竦ませた。 だけどここで屈してしまえば、また同じことの繰り返しになってしまう……。 本気で長山との関係を築きたいと思っているのなら、自分の中に潜む拒絶から耐えなければ先になんか進めない……。 「ふ……触れてみないとっ…分からないからっ…この間だって我慢すれば……最後まで……」 声が震える·····。 長山にやっぱりダメなんだって思われたくない·····。 長山の手が上がり、肩を掴まれるような気配がして尚弥はグッと瞼を閉じる。しかし、彼は深い息だけ吐くと離れて脱力したようにベッドへ座り込んでしまった。

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