201 / 292

22-2

暫くしてブザーが鳴り、会場一体の照明が落とされる。ステージ上に並べられた椅子に人が座る気配がすると数十秒でパッと照明がつけられた。指揮台を囲うように手前側の左右にヴァイオリン、チェロやヴィオラ。後列には管楽器が並ぶ舞台上。指揮台のすぐ下手側に一際目立つようにグランドピアノが置かれていた。 会場の拍手と共にタキシード姿のダニエルが舞台上を足早に歩き、一斉に立ち上がる団員に軽く一礼する。更に客席に向かって深くお辞儀をすると指揮台に登壇しては背を向けた合図で団員も着席した。 会場が静寂に包まれた中で指揮棒と共に腕を上げたところで、振りかざした腕と共に甘いヴァイオリンの音色が場内に響く。 大樹も耳にしたことのある恋の始まりを告げるような軽快で心穏やかだが、どこか浮かれている表現が垣間見える曲。 聴いていて大樹も胸が浮き立つと同時に、藤咲と出会った人のことを思い出していた。 幼き瞳に光を宿していた藤咲。そして、彼との再開。まるで俺たちのことを移しているような曲目に胸が鳴る。 2曲目を終えたところで一度静まり返ると舞台上の脇から藤咲が現れて来た途端に今日一番に誰もが期待を寄せている意を込めたような大きな拍手が沸いた。 一昨日感情を取り乱して涙を浮かべていたとは思えないほどの凛とした佇まい。やはり俺が傍にいない方が藤咲の情緒を不安定にされることとないんだろうなと思わせる。 深く一礼をしたところで、会場一体の熱視線と壇上から伝わる緊張感が織り交ざり、大樹自身も彼の姿を見て身が締まる思いだった。

ともだちにシェアしよう!