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叩かれた反動で右斜めに俯いては、大きく目を張る藤咲。彼を叩いたのは2度目だ。最初は自分のことをぞんざいに扱おうとする発言をしたことへの怒り。 自分が感情的になってしまったことに申し訳なくて後日、謝罪をしたが今回は違う。 大樹とて、何十年も前のことではあるが、コンサートというものを経験したことはある。14歳というまだ精神的に未熟な年齢で国内では上位である程の大規模な会場でかつての相棒の律仁とステージに立っていたが、故に裏側の真剣さは十分に理解しているつもりだ。 ジャンルは違えども演者だけで成立しているわけではない、大勢のスタッフが関わっているのは同じだ。会場のセッティングや企画、当日の照明、先ほどのボディーガードもそうだ。 だから大勢の人が携わっているこのステージで私情を持ち込んで周りに迷惑をかけてたことへの、本人からの申し訳なさや動いてくれている人への敬意が見られなかったことに怒り心頭した。 何より腹が立つったのは、プロであればこのコンサートを楽しみに人生の大切な時間を使って来てくれた観客に不安を煽らせるような姿を見せてはならないという大樹なりの表に立つ側の意識が未だに根付いているからだった。 反動で俯いた藤咲は目頭に涙を浮かべながら此方を睨んできたが今の大樹には関係ない。 「お前、演技までして周りの関係者巻き込んでこんなことしていいと思ってんのか?周りがどれだけ心配したと思ってんだ。関係者だけじゃない、お客さんだってお前の姿みて動揺してた。観客にそんな感情を抱かせるなんてプロとしてどうなんだ?」 「じゃあ、どうすればよかったんだよっ。じゃないとあんた、もう僕に会いに来てくれないんだろっ。終わりにしようってなんだよっ……僕のこと見捨てないって言ったくせに……あんたの気持ち汲めだなんて…あんただって僕の気持ち分かってないくせに……」 いつもの感情に任せて責めたことにより、相当追い詰めてしまったのか、 近くの少し硬さのある枕を手にした藤咲は大樹の身体を何度殴ってくる。大樹は反動で後ずさると枕を投げ飛ばされ、藤咲は両手で顔面を覆っては慟哭する。 ああ、やはり自分は藤咲といる資格はないんだろうか……。

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