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驚きと共に胸倉と肩口から伝わる頼りない拳と震える息。きっと藤咲にとっては俺に触れることも、「好き」だと言葉で口に発することも底知れない勇気を振り絞っていることを彼の打ち震える全身が訴えていた。
俺はそんな本気で伝えようとしている彼の気持ちを自分の都合のいいように履き違えていた。己の感情ばかり優先して、勝手に自分で藤咲の為だと決めつけ、彼の真意なんて一ミリも解っていなかったのに……。
それどころか藤咲の気持ちが知りたくて海を渡って会いに来たのに俺は端から諦めてそのまま去ろうとしていた。
きっと何度も歩み寄ってくれた藤咲の些細な合図に気づいてやれなくて彼の勇気を踏みにじってきたに違いない。
最初から藤咲は自身の傷を負いながらも俺と俺の気持ちと向き合おうとしてくれたのに……。
彼を煽るような真似をして動揺させて、謝っても謝り切れないほど己の精神の未熟さを痛感する。
詫びる意と彼のいじらしさからくる愛おしさが織り交ざり、大樹は藤咲の背中に腕を回すと右手で頭を抱えるようにして抱きすくめていた。
「ごめん、藤咲のことちゃんと理解してやれてなくて。俺の勝手な解釈で無責任に約束破って終わりにしようなんて言ってすまない…。お前の本心が知りたくて此処まで来ておいて、藤咲が俺の言動で苦しんでいるなら一層のこと離れた方がいいなんて、勝手だよな」
「僕も…あんたと離れるのも悪くないなんて言ったから……」
「あれは本心か?」
胸の中に埋まった藤咲の頭が大きく左右に振られる。
細くて柔らかい髪に指を通し優しく撫でると体がビクリと反応していたが、抵抗する様子はみせなかったのでそのまま続行した。
猫を撫でているような心地よい気分になる。
「本当はあんたの傍にいたい。でも…あんたからそう切り出されたのが寂しくてムキになったんだ……」
一度吐露したことによって気が軽くなったのか、耳朶を赤くしながら零してくる藤咲の本音に喜々としてたまらなくなりながらも、微妙に話の筋違いに違和感を覚える。
藤咲が日本を離れるかもしれないという話は全て渉太から聞いたものだ。
まるで俺の方から切り出したかのような物言いに大樹の手が止まり、体を離した。
「でも渉太にお前は話したんだろ?大事なコンサートが終わったらこっちに住むって?」
「渉太とは2月半ばに映画館でばっかりあった以来会ってないからそんな話をした覚えない。ベルギーに行くことは話したけど··········確かにあんたからのメッセージを無視して逃げるようにこっちに来たのは事実だ。でも、移り住むなんてあんたに言われるまで考えて無かった·····」
「それがなにか?」と問うようなきょとん顔で見上げてきた藤咲を前にして、もしやこれは藤咲に会いに行くことを諦めていた俺への焚き付けだったのではないかと諭す。
と同時に藤咲が日本を離れることを自発的に考えていたわけではなくて安堵した。
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