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きっと渉太に背中を押されなければ大樹はこの地に降り立つ事はなかった。大分遠回りをしてしまったが、こうして藤咲の真意を聞くことなどなかっただろう。 最初から最後まで渉太にはおんぶにだっこで頭が上がらない。 出会った当初は弱々しい小動物を彷彿させるような、遠慮がちで引っ込み思案だった後輩が俺に嘘を吐くくらい著しく成長を遂げていることに感慨深く浸っていると、鋭い視線が斜め下から浴びせられ、藤咲に目線を移すと眉根を寄せて睨んできていた。 「渉太がなんだよ……」 「いや、いいんだ」 特に大したことではないと適当にあしらう。しかし、大樹の返答に納得していないのか、藤咲が肩口を思い切り拳で殴ってきた。 細い腕だと見縊っていても成人男性の力量であることは違いないのでそれなりの打撃を受ける。 指の関節で突くようなパンチを食らい、思わず「痛っ」っと声を上げていた。 「あんたって何かと渉太の話してくるよな。つまんない」 どこか嫉みの含んだように口元を微かに尖らせている藤咲がやけに意地らしい。 これは……俺は藤咲に妬かれてるのだろうか……。 そう思った途端に本人は不機嫌極まりない表情にもかかわらず、大樹の頬は緩んでいた。 「何わらってんだよっ」 「藤咲も妬くことあんだなって思ったら嬉しくてさ……」 「は?ちがっ…だから嫌なんだよっ……あんたを好きだなんて認めたくなかった…」 図星だったのかそう小突いてやると、藤咲が恥ずかしそうに顔を俯かせる。 「そんなこと言うなよ?」 大樹はそんな藤咲の姿にたまらなくなり、胸倉を掴まれていた指先を自分の左手で包み込むように手に取ると、手の甲に唇を落とした。 そんな大樹の行動に「なっ…」と驚いては体を退けようとベッドの上で後ずさる。 大樹らそんな藤咲を逃がすまいと、身を乗り出し、右手を背中から腰へずらすと更に体を引き寄せた。 「っ……」 「触れてもいいか…?」 目と鼻の先にある藤咲の顔。 少し不安げに揺らいだ瞳に問い掛ける。 藤咲は戸惑いながらもこくりと頷いては「あんたになら…」と呟いた。 緊張と嬉しさで胸が騒ぎ、早く触れたい気持ちに駆られる。 だけどいきなり事に運ぶのは藤咲の恐怖心を煽ってしまうから慎重に…指先から徐々に慣らすつもりで…。 爪の先を親指でなぞり、指の形を確かめるように沿わせていく。 この指先で俺のことを想いながら、額に汗を滲ませ情熱的にピアノを弾いてくれたと思うと愛おしさが込み上げてきては、自然と唇を寄せていた。指先だけじゃ飽き足らず、手首の付け根まで余すとこなく口づけをする。

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