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ふと藤咲に視線を移すと唇を噛みしめて顔を歪めていた。 未だに拭えない触れられることへの恐怖心と戦っているんだろうか·····。 「さっきはプロ意識が欠けてるなんて怒ったけど、嬉しかったよ。藤咲が俺のことを想ってあの大事なステージで曲を弾いてくれていたことが·····。こうして触れたいと思うけど、俺にとって藤咲と同じ気持ちで居られることが何より一番嬉しいから·····だからゆっくりでもいい」 藤咲の本心を知れたことだけでも大きな一歩だ。今までみたいにゆっくりと彼に触れていけばいい、自分の煩悩くらいはどうとでもなる。大樹は即座に藤咲から離れてベッドから降りようとしたとき、腕を掴まれ引き寄せられる。 「あんたはまたそうやって僕の覚悟を踏みにじんのかよっ。·····我慢なんかしてないって言っただろっ。あんたに触れられるのはイヤじゃないっ·····だからっ·····」 だからもっと触れろというのだろうか·····。 大樹が未だ残していた理性で提案したものを意図も容易く崩していく。 藤咲の表情では恐怖心を訴えているくせに、口では強がって煽ってくるところが憎らしいが嫌いになれなかった。 そして、脆くも崩れていった理性を失くして自分は易々と彼の挑発に乗ってしまう·····。 「ホントにいいんだな?」 大樹は藤咲の言葉に煽られるように、再びベッドに身を乗り出しては彼を遠慮なく押し倒した。 横たわる藤咲を見下ろし、顔の横に左手をついては黒シャツの襟もとから覗かせる地肌を指でなぞると藤咲は自身の胸元のシャツの裾を強く握って目を瞑っていた。 あくまで大事にしたいという気持ちは変わらない。大樹は丁寧に襟元のボタンを第二まで外すと、ココだと目がけるように藤咲の首元の顔を埋めて唇を寄せた。 最初は優しく、徐々に吸い付くようにして·····。 「っ·····」 藤咲の鼻から微かに漏れる甘い息がより一層大樹の欲情を掻き立てる。 人形のように全身を膠着させている藤咲の緊張をほぐすように、シャツ越しから上半身を撫でるように滑らせては首筋にキスを落としながらスラックスに仕舞われたシャツを引き出す。 中に手を入れて腹部に触れたところで藤咲は顔を真っ青にしながら大樹の腕を無言で掴んできた。

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