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「その様子だともしかして本人に聞いてないようだね。君たちいつも仲良さそうにしてたから大樹君、藤咲くんにも話してると思ったんだけど·····。先月の頭くらいかな?大樹くん本人が「詳しくは話せないんですけど、俺、もう長山の人間じゃ無くなったので此処に居られなくなりました。筒尾さんにはご迷惑お掛けしましたが、お世話になりました」ってご丁寧に菓子折り持って訪ねてきたんだよ」 グラスを拭きながらどこか物寂しげにそう語る筒尾に動揺を隠せない。 長山の人間じゃなくなったってどういうことだ・・・? ベルギーから帰りの飛行機でも一緒だったというのに、大樹からはそんな話は一切してこなかった。 先月の頭くらいと言ったら、此処で麗子と会って大樹からの連絡を無視して逃げていた頃だ。あの時は、大樹から受けた熱帯びる視線に動揺し、受け入れたい心と拒絶する心の葛藤で己を鎮めることに精一杯だった。 今だから冷静に考えられるが、彼女が強い憎悪を抱いている相手と息子が一緒にいると分かったのならば、ただ事では済まされない気がする。 もしかして僕のせいで大樹に不憫な思いをさせてしまっているのか·····? 今すぐ会って事情が知りたい……。 不安と焦りが織り交ざる中、尚弥は筒尾に一礼をすると店の外に出て、すかさずスマホを取り出し、少し躊躇いながらも過去の大樹の着信履歴から通話ボタンを押す。 数コールほど鳴らすが、出る気配などなく、それどころか「お掛けになった電話番号は電波の届かないところにあるか、電源が入っておりません」とガイダンスが流れてきて、尚弥に蟠りを残したまま電話を切った。 相手からの連絡を待つしかない。 結局、自宅に戻って二回ほど電話を鳴らしてみたが、同じガイダンスが流れるだけで、大樹が電話に出ることも折り返してくることもなかった。 最初こそ大樹の所在を案じていたが、数日経っても音沙汰がないことに、次第に腹立たしさを覚える。あんなに自分に対して好意を示してきていたというのに、なぜ大事なことは話してくれないのだろう。 滞在中、話す機会など沢山あったはずなのに·····。 尚弥自身、恋愛関係である者達の事情など知らないが、定期的に連絡は取り合うものなんじゃないのだろうか·····。 会ってもっとこう、食事とかするものなんじゃないんだろうか·····。 考え始めたところで自分が想う以上に無意識に長山のことを考えている自身に身震いした。

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