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日没からの都内某所にあるレコード会社の会議室。 二つ合わせに並べられた会議テーブルに、尚弥の向かいの席から浅倉律、左隣には律と契約している自分より一回り以上年上のレコード会社の担当者、|木内《きうち》がノートパソコンから流れる楽曲を真剣な表情で視聴している。 以前から受けていた作曲の仕事の依頼は音楽に留まらずマルチで活躍するトップアイドルだとうたわれ、プライベートでも親交がある浅倉さんからだった。 夏に発売予定だというミニアルバム楽曲。 普段はクラシックに専攻しているものの、自ら好きな曲を弾いて動画に上げている程、J-popは好んでいるし、自ら作曲をしている浅倉さんの曲は好きだ。 そんなときに彼とのコンサートの仕事。 大樹と渉太との食事の席で音楽について深く話すことをきっかけに自分が世に出すまでではないが、興味があって勉強がてら作曲もしていると 告げたことで今回の話が現実となる。 その場だけの浅倉さんのノリだと思っていたので、マネージャーを通して仕事の依頼が来たときは驚いたが、今や心を許せる人の一人である渉太とも浅倉さんの楽曲を通じて深まったのがきっかけでもあるから、彼の前で詰った過去があったとしても自分が彼に楽曲を提供できる機会は光栄なこと。 なので尚弥にとっては誰かに楽曲を提供するなど、初めての試みにだけに、身に引き締まる思いでいた。 時折、浅倉さんにアドバイスを受けながら、この数ヵ月かけて作った楽曲が世に放たれるのは、目の前の紺色のポロシャツに肘をつき両手を組んで、眉間に皺を寄せている制作会社の担当者と尚弥の作成した曲に詞を吹き込む浅倉さんの同意があってからだ。 険しい表情を浮かべてどっちともとれない様子の木内に対して指でリズムを取りながらも聴き入ってくれている浅倉さん。普段は仕事ではセットされた髪型に出来上がった姿の彼を目にすることが多いが、今日は表に出る仕事がないのかプライベートで見る眼鏡で完全にオフの姿であった。 3分半弱の曲を聴き終え、頬に手を当て考え込む木内。 雰囲気からして浅倉さんは気に入ってくれているようだが、木内の顰めた表情は変わらない。 「うーん。初めてにしては凄くいいと思う。藤咲君ってクラシックのイメージ強いからさ、ポップさのある曲は意外だったよ。個人的に好きだよ。だけど律というより綺麗すぎるメロディラインがT-PRINCEのイメージの方がしっくりくるかな。律のファンは大人っぽい色気の感じるものを律に求める人が多いからさ·····」 そう甘くはないのか木内は表情通りの手厳しい反応だった。 しかし、木内の言っていることは納得ができる。 CD音楽事情を把握しているわけではないが、きっと彼は、私情を挟んだ意見ではなく売れるか売れないか、律の楽曲に相応しいのかで世間が求める音楽出るかを判断しているのだろう。 ましてや近年はスマホが普及して配信音楽が主流になっている時代·····。 音源販売が厳しい現状であることはそこら辺の知識のない尚弥でもわかっていた。

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