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「尚弥くん、詞を書く参考にしたいから君がどんな気持ちでこの曲作ったのか教えてくれないかな?」
徐にタブレットを取り出しメモする体制で向かいの浅倉さんが構えている。
尚弥は机の上で両指先を絡めて、返答に困惑していた。
事前に浅倉さんによって特にテーマはないから尚弥くんの好きに作っていいと言われていた。この曲は、自分の中の恋心への葛藤、トラウマ、その先に見えた光·····今の僕の気持ちを表現したものだ。
曲について話す上で私情の話も関係してくるので、水知らない人間ではないが
彼も自分の身内を把握しているだけに話しずらい。
下手に話して大樹のことだと勘繰られても嫌だし、浅倉さんなら余計におちょくってきそう。だからって「自分で考えろよ」なんて強く言えないのは仮にもこれは仕事の話だからだ。それに目の前の男は真剣な眼差しで僕が喋るのを待ち侘びているので、此処は冷静に仕事だと割り切って話すしかない。
尚弥は静かに深呼吸をすると、仮面をつけたように心を無にして淡々と
話し始めた。
「まさに浅倉さんが解釈してくれた通りです。僕自身、強いトラウマから長い間抜け出せなかった。でもそこから脱したい、少しの希望の光があるのならっそれを手放してはいけないと思った一心での出来上がった曲なので」
大丈夫、彼の名前は出していないし、それが色恋沙汰に繋がる発言はしていないはず·····。
このまま深堀などされず、軽い参考程度で留まってくれればいいのだが·····。
「へーなるほど」
向かいの浅倉さんも尚弥の話に深く頷きながら、ペンを持ってタブレットに書き込んでいるので安堵したのは束の間、彼の目線が尚弥の手元へと移ると口角がニヤリと持ち上がった。
「尚弥くん、おめでとう」
突然の浅倉さんからの祝福の言葉に尚弥の思考が停止する。
今自分は何を祝われているんだ·····?
先ほどまで楽曲の話をしていたはずなのに、今の一連の流れから「おめでとう」に繋がる場面がどこかにあっただろうか。
「はい?」
尚弥は訝しむように頬を緩ませている浅倉さんを凝視すると、ペン先で僕の手元を指してきた。
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