225 / 292
25-11
午後21時を回った頃、尚弥の予想通り御飯の誘いではあったが、日頃浅倉さんが身バレを恐れて入る個室完備の店とは明らかに違う。
店内に縦に連なるボックス席に店内の奥にはドリンクバー。
そのさらにドリンクバーの奥から赤いと緑の細めの縦線の入ったシャツに茶色いエプロンスカートを身に着けた店員がぞろぞろと料理を持って出入りしてくる。いわゆる24時間営業のファミレスという場所だ。
もちろん尚弥も学生の時、それこそ渉太やその他の奴らと当時その仲間らの中では成績優秀な位置であった僕に勉強を教えて欲しいとせがまれ、数回だけ入ったことがある。
尚弥でこそ知名度は業界では世界的とはいえ興味ない一般人からしたら
名前を聞いてやっと顔が一致するくらいの認知度。
しかし、目の前の男は格段に違う。顔を見ただけで大半の人が名前を答えられるそんなレベルだ。そんな本人は帽子を深く被り、眼鏡にマスクと一応外見に徹底はしているものの、気づく人には分かるのではないだろうか僕が心配するくらいだった。入店時に完全にど世代でありそうな若めの女店員に案内されたときは、流石の尚弥でさえ冷や汗をかいた。
渉太いる大学に通い詰めていたなんて話も聞くし、この男は
毎回こんな危ない橋を渡っているのだろうか。幸い今は食事時のピークは過ぎたのか、客は少ないし、ぱっと見若年層は見られないのが救いだった。
注文用のお店のタブレッドを吟味している浅倉さんは、手慣れた様子で妙に店の雰囲気に馴染んでいるのに尚弥にとっては違和感でしかない。
ファミレスであれば近くに何件も車内で見てきた。わざわざ車で30分ほど走らせ、なぜこんなところに連れてきたのか不思議でならなかった。
しかし、その答えは数分もしないうちにやってくる。
しばらくして、「いらっしゃいませ」と言いながらお冷を持ってきた店員。
尚弥はなんの気もなしに視線をコップの水に落としたまま受け取ると、途端に「お前、また来たのか」と向かいに男に対しての溜息交じりの問いかけに尚弥はふと顔を上げる。
初めて目にするワイシャツに赤色のネクタイ。腰にエプロンを身に着けた、長山大樹が浅倉さんに向かって小声で話しかけていた。
ともだちにシェアしよう!