227 / 292
25-13
「こんな所にって·····それが久々に会う態度かよ」
久々に会えた大樹の第一声が尚弥の対して謝罪の言葉でも再会を喜ぶものでも無いことに余計に腹が立つ。それどころか、此方が睨んでやると罰が悪そうに目線を逸らされてしまった。
「ほらー、大樹がおざなりにするから尚弥くん怒ってるじゃん。ちゃんと尚弥くんを捕まえとかなきゃ世界でも何処でもまた行っちゃうよ?」
浅倉さんは僕達を交互に観察しながら目元はずっと細め意味深に大樹に問う。
そうだ、浅倉さんの言う通りあの時は半分ムキになって移住を仄めかす発言をしたが、本気で移ろうと思えばいつでもできるんだ。だとしても、僕が大樹と離れることを望んでないから幾ら腹が立ったとはいえ衝動的にはならないが·····。
しかし、大樹は僕がまた海外へ行く、住むと言ったらどんな反応を示してくるのか気になって黙りしてみたが、「すまなかった·····それは困る」とだけ言ってその先がなかった。
別に親友の前で愛情宣言をしなくてもいいが、二人で過ごした時間の余韻を未だに残しているせいか、大樹はこんな淡白な奴だっただろうかと思い返す。もっとこう·····大樹に触れられたときは熱を帯びたようなものを感じられていたから·····物足りなさを感じてしまう。
「で、なんでお前らが一緒なんだ?」
眉根を寄せて浅倉さんに問う。
「あーね、尚弥くんと濃密な関係を築いて、俺と尚弥くんとの大切な子を世に放てたらなーと思ったから、食事に誘ったわけ」
俺たちの子って·····多分曲のこと揶揄しているのだろうと直ぐに理解できた。普段は恋人のことばかりしか考えていない癖に僕との関係に誤解を招くような発言をしている浅倉さんは態とだろうか。
事情を全く知らない大樹は浅倉さんの煽りに乗せられるように右の小脇に抱えていた銀盆が手からすり抜け、人が疎らの静かな店内にそれなりの音を立てて床へと落ちた。
ともだちにシェアしよう!