230 / 292
25-16
これから浅倉さんが口にするであろう言葉が怖い。一生隠すつもりは無かったが、好きな人には知られたくないもうひとつの僕の過去。
だけど渉太と僕の関係を語る上で隠してはおけない過去。
大樹が知ったら幻滅するだろうか·····。
穢らわしいと罵られた発言が、あながち間違いではないことに·····。
可愛がっている後輩を傷つけたのが自分であることに。
「尚弥くん、大樹ならいいよね?俺は優しくないから君の綺麗な部分だけ切り取るつもりなんかない。大樹は俺の大切な友人だからこそ辛烈に話すよ。俺も渉太から詳しくは聞いてないけど、君たちのこと」
尚弥は静かに頷くと、後の言葉を浅倉さんに委ねた。その頷きを目視してか「大樹は出会った当初の渉太が引っ込み思案だったの知ってるだろ·····?」と浅倉さんは語り始めた。
僕と渉太が恋仲で渉太の本気の告白を親身に受け取らなかったこと、それどころか嘲笑い、クラスの奴らに彼の性癖を敢えてアウティングするような真似をして日本から逃げたこと。
そして本人から聞かされていなかったその後の彼の話。尚弥が留学した後、渉太はクラスのから浮いた存在になった。一時的に学校に通う事ができなくなった彼は、通信に転校し高校生活を終えたことを聞いていて胸が痛んだ。
僕は一度しかない大切な渉太の青春を奪ってしまっていた。
渉太本人は「気にしないで、俺も悪いから」と寛大に許してくれたことに僕は甘えていたのかもしれない。第三者から改めて聞かされて、己の渉太に対してしたことへの重さを痛感した。
彼が学校のトイレの地べたで泣き崩れて嗚咽を漏らしていた姿を数年経っても忘れない·····忘れちゃいけなかったのに·····。
「すまない、それには俺にも非があるんだ。藤咲をこんなに追い込んだのは俺の責任でもあるから·····だから藤咲ばかりを責めないで欲しい。渉太には俺から謝るから」
浅倉さんが話し終えた後、黙って聞いていた大樹の第一声に尚弥は思わず俯いていた顔を上げた。てっきり最悪な人間だと幻滅されるものだと思っていた。
約束した通り、自分を見捨てるような発言をしなかったことが嬉しい反面、大樹にも責任を負わせてしまったのだと負い目を感じた。
「あんたが責任なんか感じる必要はない。僕が·····ちゃんと自分のことなのに折り合いを付けずに逃げてきたから、渉太のことを誰よりも大切に想ってる浅倉さんに恨まれて当然だと思う·····僕自身も許してくれる渉太に甘えていた部分もあるから·····」
渉太だけじゃない、僕は沢山の人の心を傷つけてきた。それはトラウマを理由に正当化していいわけじゃないと自覚している。顔は思い出せないけど、中には本気で自分に言い寄ってきているものをいた。
そんな彼らの気持ちを僕は踏みにじったんだ·····。全て許されたように錯覚しちゃいけなかったのに·····。
「俺は尚弥くんにも大樹にも渉太に謝って欲しいからこの話をしたわけじゃないよ」
ともだちにシェアしよう!