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お通夜のような重い空気が流れる中で、ピシャリと浅倉さんが空気を変える。
「尚弥くんが渉太のことを過去に傷つけた事実は渉太が許しても俺の中では一生許せないよ。大樹と尚弥くんの間に何があってお互い庇い合っているのかも判らない。だけど、そんな恋愛下手の君がこうやって曲に想いを乗せるほどの大切な人ができたのはとても幸福なことだと俺は想うよ。君は人を傷つけた分、もっと人の痛みを知って、大樹を大切に思うことで相手に思いやる気持ちを知るべきだ。君が幸せになることが過去の渉太の心の報いになるから」
膝の上で握る拳に力が入る。
浅倉さんの言葉通りに辛烈な事実を突きつけられたけど、何処か温かみがあって不思議とストンと胸に落ちた感覚がした。
渉太がよく『律仁さんの言葉は魔法のように僕に力を与えてくれる』だとか言っていた意味が分かった気がした。
こんな自分が大樹を好きなり、幸せになることで報いになるのだろうか·····。
「だからこれだけは説教させて。お前らは、ちゃんとお互いで話し合え。大樹の放っておくと連絡無精になるところもお前の悪いとこだぞ。お前には尚弥くんを支える資格があるんだから」
冗談が度を越えてしまうこともあるけど、やはり常に考えて世に言葉を発信している人間の発言の重みは感じる。
多分浅倉さんは大樹の事情をすべて知っているだろうし、それを僕に話していないことを察して此処に連れてきたのだろう。
そして僕がひた隠しにしていた渉太の過去を話すことで、大樹の僕への想いの強さに再確認させられた。
外見が格好いいだけじゃなくて、内面の真面目さや、周りを察する能力に長けているからこそ、世間からも業界人からも好かれる。なんて憎らしいけど憎めない人なんだろう。
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