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朝焼けの人の気配も車通りも無い静かな道路、自転車を押す大樹の傍らで並列して歩道を歩く。行きは律仁さんの車で来たが、帰りのことは考えていなかった。勿論大樹は前回同様自転車で来ていたため、大樹に連れられ、駅前のタクシー乗り場まで向かうが、店を出てからもお互いに沈黙のままだった。 浅倉さんを交えて話してから大樹とはまともに会話を出来ていないせいか、何から切り出せばいいか分からない。訊きたいことは沢山ある。だけど、渉太とのことを知った大樹が今何を考えているのだろうか。 渉太は大樹が可愛がっている後輩でもある。 表面上では僕のことを庇ってくれていたが、彼もまた少なからず憤りを感じてるんじゃないんだろうか。澄ました横顔からじゃ感情なんか読み取れない。 尚弥はその場に立ち止まると遠ざかる気配を察知した大樹が振り返ってきた。僕の様子を伺うように問いかけてくる大樹に、尚弥は意を決して彼の元まで足早に近づく。 「僕のこと酷い奴だと思っただろ?」 大きく開かれた双眸の奥に自分が映る。自分の醜さが映し出されているようで目を塞ぎたくなったが、これが自分の真の姿であり、逸らしてはいけない。 「あんたは僕に穢らわしくないって言ったけど、人の心を散々弄んで傷つけたのは渉太だけじゃない。渉太以外にも、僕自身の恨みのために好意のあるやつには思わせぶりの態度取って、キスだって·····」 知ってもらう怖さと大樹には知っていてもらいたいという切望が交じり合う。 「もういいよ。宏明から救えなかった俺にも非はあるんだ·····藤咲ばかりが悪い訳じゃない」 尚弥が必死に訴えていると、遮るようにして大樹はそれでも自責の念を感じているようだった。 「でも、僕があんたの大事な後輩を傷つけた事実は変わらない。何でそうやって僕を庇うんだよ。あんたも本当は怒ってんだろ?ならいつもみたいに説教なりして怒ればいいだろ」 優しくされるくらいなら、怒ってくれた方がいい。 これは過去に自分が犯した罪であり決して大樹が責任を負うことではないのだから。

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