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「別に藤咲を庇ってる訳じゃない。確かに怒ってるよ。どんな理由であれ人の心踏みにじる行為は容認できない。でも、お前をこんな状態にさせた、あの時の俺に憤りの方が大きいんだ。お前の心を歪ませたのも元を辿れば俺と宏明のせいだ。だから藤咲ばかり責任を負う必要はない。それに・・・・」 自転車のハンドルを持つ左手が離れ、頭上に上げられたかと思えば、暖かい 彼の手の重みを首で受ける。急に触れられて身体かビクリと震えたが、久しぶりの嫌ではない感覚。 「律仁は俺にもお前にも謝ってほしいわけじゃないって言ってただろ。 渉太だって根に持って恨むような奴じゃないってお前が良くわかってるはずだ。だから例えこの先辛いことがあったとしてもお前の抱えた痛みを俺にも分け合わせてくれないか?藤咲と共にいたい気持ちは変わらない」 朝日に照らされるように優しく笑んでくる大樹の表情にキュッと胸が掴まれる。 「でも、僕はあんたに迷惑かけてばっかりだし、僕のせいであんたは家から追い出されたんだろ・・・あの店の店主に聞いたんだ。だからあのヴァイオリンの店だって辞めて、律さんの事務所の寮に住む羽目になったんじゃないのか。だから怒って連絡してこなかったんだろ」 この一か月間不安だった。 筒尾に大樹の家の事情を聞かされてから、虚勢を張って開き直って大樹のせいにしてみても、内に秘めた蟠りは消えてくれなかった。 大樹の母親の麗子の言動を反芻しては、本気で自分が大樹と関わることは彼のために果たして正解だったのか問いただすほどであった。 ファミレスで久々の再開を遂げたときの彼の反応すらも疎まれているのではないかと一瞬だけ頭によぎったくらいだ。 「それは、連絡してやれなくてすまなかった。俺の状況を知って藤咲に変な心配かけたくなかったから、住む場所も決まって環境が整ったうえで話そうかと思ってたんだ。まあ・・・こんな居住地すら定まらない転落男なんて藤咲の恋人として格好つかなくて俺のプライドが許さなかったのもあるんだけど」 尚弥の頭に置かれた手が離れ、大樹は不甲斐なさそうに視線を逸らし、自らの頭を搔いていた。

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