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「長山の家を追い出されたのは事実だけど、これは俺が自ら選んだ道なんだ。このまま母親の云うこと訊いて、ずっと衣食住不自由なく親の甘えで大学院通って、中途半端に音楽続けるより、藤咲と一緒にいて藤咲のためにヴァイオリン弾いて、時々星見に行ったりするほうが俺にとっては一番幸せだと思ったんだ」 つま先から頭の先まで、熱が上がりそうなほど大樹の声から発せられる甘い言葉に深い溜息を吐きたくなる。それは呆れだとか嫌悪感とかからではなく、尚弥自身の心が喜んでいると自覚したからだ。 彼に溺れてるのは僕の方だ。 「あんた馬鹿だろ」 「藤咲に言われるなら本望だよ。貯金もあるし奨学金制度受けて勉強しながら元々やってたファミレスのアルバイトを増やして、生計立てて行くつもりなんだ。まあ家を探すどころか寮にすら戻ることが出来てない現状なんだけどな」 自嘲気味に笑うと大樹は両バンドルを強く握り、再びゆっくりと歩き出す。傍から見たら格好悪い現状かもしれない。でも、尚弥からしたら今までにないくらい逞しさを感じた。 尚弥もその背中について行くように肩を並べて歩く。 「この後、大学なのか?」 あと数時間もすればこの静かな通りは、沢山の車や人で行き交うことになる。大樹の普段の日程を把握している訳では無いが、一般の学校と同じ登校時間帯だということくらいは予想はつく。 「まあ··········。一旦駅前の漫喫でシャワー浴びてから向かうかな。 やっぱり寮だと共通の風呂の時間は決まってるし、俺は別に芸能人目指すつもりじゃないから融通利かせてもらうなんて図々しいだろ?かと言っていつまでも渉太の部屋に居候するわけにもいかないからさ」 こんなに遅くまで働いて、借りぐらしの家にも帰らず日中は自分の為に勉強に勤しんでいる彼はちゃんと布団で休めているのだろうか。

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