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立ち止まり、感情に任せて大樹のハンドルを握る左腕を何度も右手の拳で殴ると「いたい、いたい」と呟いては「今日の藤咲はやけに乱暴だな」と追い打ちをかけるような無神経な発言をしてきたことにより、更に怒気を強めた。 「そんなんじゃ僕が次にあんたに会えるのはいつになるんだっ?あんたは忙しいんだろっ。なら一緒に住むしかないじゃないかっ。会えないと克服だって出来やしないだろっ」 胸ぐらを掴んで顔を近づける。 逞しく持ち上がった眉毛に、通った鼻筋。 遠い昔に顔を売って仕事をしていただけあって、イケメンと言われれば納得いく顔。 怒っているはずなのに近づけていられる事が嬉しくて微かに掠める大樹の匂いに鼻腔を擽られる。アルバイト終わりからか少し汗ばんだ男の匂いだけど決して嫌じゃない。 途端に掴んだ手を引き寄せられて、軽く唇が重なった。 ゆっくりと降りてくる大樹の優しい掌が尚弥の右手を包み、指を絡ませてきた。 「すまない。余計な事いいすぎた。でもお前が俺にそう思ってくれるのは夢見てるようで嬉しいよ。俺だって藤咲にずっと会いたかった。藤咲が良ければ俺をお前の家に置いてくれないか·····?」 人通りはなくても公然の場で熱を帯びた視線を向けられ、照れないわけがない。尚弥は耳朶を赤くしながら俯くとしっかりと大樹の手を握り返した。 「いいに決まってるだろ·····それと、尚弥って呼べよ。藤咲は嫌だ」 その低く手暖かみのある声で名前を呼んで欲しい。優しい手で抱き締めてほしい。 あんなに恋だとか愛だとか、心の底から拒絶していた筈なのに自然と相手を求めることができている。 少しずつ前に進めているだろうか。 「ありがとうな、尚弥」 大樹が呟くようにそう呼んだ声が鼓膜から木霊のように頭の中へと残像を残す。 胸が擽ったくて居た堪れない。 だけど心地良いその声に尚弥は自然と目元を細め、口元を綻ばせていた。

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