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桃瀬が自宅まで送迎してくれるというので時刻は17時と会社員の帰宅ラッシュの中の電車に乗って帰るのは躊躇いがあっただけに厚意に甘えることにした。 高速は時間的にも渋滞の可能性が高いこで下道で車を走らせ約1時間半。みなとみらいが一望できるようなそんな絶景と共にある高層マンション·····ではなく、尚弥は都市の中心部から少し離れた尚且つ交通の便がいい地区のマンションに住んでいる。 本来であれば人が多く集う場所を嫌うので、静かな場所で暮らしたいところだが、仕事上の関係で頻繁に都心部へ出向くことが多いので致し方なかった。しかし、此処はここで車を持たない尚弥にとっては不便ではないので住み心地は悪くない。 桃瀬と別れ、マンションのエントランスを抜け、自宅の扉前までたどり着くと尚弥は深呼吸をする。大樹と同居を初めて数週間。 大樹が帰る家がなく、困っていると聞いて彼の役に立ちたい一心で自ら提案したものの、今この瞬間だけは過度な緊張を覚える。 入ってしまえばどうとでもなると分かっていても自宅に自分以外の人間も住んでいるのだと思うと、途端に他人の家のような感覚がして落ち着かない。 鍵を取りだし、鍵穴に差し込んでは意を決してドアノブを捻る。玄関先へと足を踏み入れると三和土には少し汚れたスニーカーが並べられていた。 尚弥がスニーカーを履くことは滅多にないので明らかに大樹のだ。偶に研究が遅くなるとそのまま真っ直ぐバイト先に行き、家に帰ってくるのが翌朝の時がある。そんな時は一度も顔を合わすことなく一日終わってしまうことがあるが、今日はどうやら帰ってきているらしい。 未だに大樹と一緒にいる空間に慣れはしないが、会えなくとも大樹の痕跡があるだけで安心はできるし、時間がかち合って会えた時は素直に嬉しい。 尚弥は頬を綻ばせながらも大樹の靴の隣でローファーを脱ぐ。 「尚弥か。おかえり」 三和土を上がり、屈んで靴を揃えていると、背後から聞き慣れた声が耳に入ったので立ち上がって振り返る。その瞬間に思わず目を瞠り、身体中の熱が上昇した。 振り返った先の大樹は、下こそスラックスを履いてはいるが、上裸で頭に白いタオルを被り、髪の毛を乾かしながらこちらへ近づいてくる。玄関に入ってすぐ右手に洗面所と浴室があるので、丁度シャワーから上がってきた所なのだろう。 シャワーを勝手に使うのは何の問題もないが、問題があるのは大樹の格好だ。 「な、な、なんだよっその格好!?」 「ああ、夜のバイト行く前にシャワー浴びたくて。今日は早く帰ってきたから」 無駄に締りのある身体。目のやり場に困り、見ている此方が恥ずかしくなっては深く俯いた。大樹の姿に狼狽えているのは尚弥だけで当の本人は、幾ら好いたもの同士とはいえ、裸を見られることに抵抗はないらしい。

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