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早まる鼓動と触れ合う唇。大きく暖かい大樹の右手で頭を撫で抑えられ、恥ずかしさで逃げたくても逃げられない。 全身に緊張が走る中、大樹に愛情を注がれているかのように、唇を割られ、深く彼の吐息が自分の息と混じり合う。甘いキスに膝が震え、立っているのもままならなくなった尚弥は崩れ落ちるように座り込んだ。 「な、何すんだよっ」 崩れた尚弥を追うように屈んだ大樹の頭に添えてきた右手を払い除ける。 「すまない、つい·····。久しぶりに尚弥の顔をちゃんと見た気がしたから嬉しくて·····」 「だからっていきなりキ、キ、キ·····キスなんてしなくたっていいだろっ」 「したら悪いか?俺は尚弥とは恋人の認識でいるんだが違うのか?それに、俺の裸を見て動揺してるお前が可愛くてからかいたくなった」 「ち、違わない·····けどっ·····最悪·····」 帰ってきてから今まで平然を装っていたつもりでも、彼には全て見透かされてしまっていた。確かに彼とは世間でいう恋人同士に分類すると頭で理解しても、照れというものに慣れることは無かった。 一緒に住んでいるのに顔が見れて嬉しいだとか、僕のことが可愛いだとかむず痒くなる言葉を何の躊躇いもなく発言してくる大樹に翻弄されるばかりだ。 「手を繋ぐのはクリアしたから今度は、主人からキスを強請られるくらいにはなりたいよなー·····」 「なっ·····」 膝を台にして頬杖を付き意味深にニタニタしながら眺めてくる。大樹は真面目で堅物そうに見えて意外と冗談や自分を揶揄ってくるのは、さすが類は友を呼ぶのだと思う。 散々身体を触ってきた口が何を言っているんだと問いただしてやりたくなったが、これ以上この話題に触れたら大樹の暴走に火をつけるような気がして黙って俯くことしか出来なかった。 共に過ごして行くうちに、最初こそ声を上げずにはいられなかった手を繋ぐことは次第に身構えなくても平気なくらいにはなった。 もちろん強迫行動も多少我慢は出来るようになった。心の傷が癒えると同時に指先の赤く、痛む傷も癒えていく様は自分でも嬉しく思えた。 好きもの同士が単純に手を繋ぐだけで終わらないことも心得ている。あの場では己の欲に我慢できず流されるまま一歩手間まで来てしまったが、いざとなって彼とキスから先のことも考えるのは、恐怖心と罪悪感が全く無いわけじゃなかった。 それでこそ、取り乱すことはなくなったにしても、幼い頃の記憶と向き合わなければならない。父親と大樹の兄が身体を重ねていたあの日の記憶と·····。 「そうだ、尚弥。まだ時間があるんだ。一緒に晩飯食わないか?ご飯は出来てるんだ」 大樹は手指を絡めてきては、ニッと目元を細めて微笑んできた。

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