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「尚弥って誤解生む性格だよなー·····」と肩を揺らして未だ笑っている大樹。決して悪意を持って詰っている訳では無いと分かっていても、からかわれているのが気に触る。尚弥は、躍起になってテーブルにダンッと強く叩きつけるように箸を置くと彼を睨みつけた。その瞬間に大樹の笑い声はピタリと止まる。 「そんな笑わなくてもいいだろっ」 「そういう意味で笑った訳じゃないんだ。俺はお前と居て楽しいよ。でもさっきからお前を怒らせたばかりだから謝るよ」 テーブルに手をついて深く頭を下げてきた大樹に微かな罪悪感を感じる。責めるために言ったわけじゃない。僕自身も大樹といて楽しいからこそ、この浮ついた心を受け入れる事に慣れなくて、素直でいることが出来ないだけ。 「·····ぼくも·····あんたといたら·····楽しいからそんな簡単に謝ったりすんなよ·····」 「ん·····?なんか言ったか?」 尚弥は置いた箸を握り、自分の意思を素直に伝えようと試みるが、音になるかならないかの小さな声量すぎて、大樹は顔を上げると大きく首を傾げた。我ながら改めてもう一度云ってやれるほどの親切心と素直さは持ち合わせてない。 「言ってない·····申し訳ないと思ってるなら絶対、発売日に10枚はCD買えよ」 「もちろん、尚弥が望むなら100枚でも1000枚でも買うよ」 結局赤面しながら、いつもの調子で煽ってしまったが、大樹は全く動じた様子を見せずに微笑みながら尚弥の想像をはるかに超えた返しをしてきた。 「馬鹿じゃないの?そんなに買って何に使うんだよ」 自ら沢山買えと促しておいて、矛盾した話ではあるが、例え言葉の綾だったとしても内心では喜々としていた。尚弥の門出を両手を上げて喜んでくれているのが伝わるからだ。 そんな表面上では当たりの強い尚弥の問いに対して実用用、観賞用、保存用などと言って指折り数えては1000枚のCDの使い道を真剣に考える大樹に「変態」と詰ると考えを改め直したのか「確かになー……」と深く頷いた。 「律仁(あいつ)のジャケットCD沢山持ってても、俺得ではないよなー。お前の作った曲とは言え、あいつの声で再生されるわけだろ?一層のこと尚弥が俺に弾き語ってくれたほうが俺的には嬉しいんだが?」 「それは絶対ない!」 何か閃いたと思ったら突拍子もないことを言い出して、顔から火が出そうなほどの羞恥に見舞われる。僕が大樹の為に弾き語るなんて絶対に嫌だ。ジャズシンガーでもなけば、尚弥はあくまで弾く専門であって歌う専門じゃない。歌うのであれば大樹の方が一時とはいえ、専門分野であったはずだ。 「そこまで否定しなくてもいいだろ。でも、音源はちゃんと買って擦り切れるまで聴かせてもらうから安心しろよ」 「絶対だからなっ」 大樹にいい宥められた感が否めないが、彼に好かれている事実が嬉しくてたまらなかった。こんな捻くれた自分でも優しく受け止めてくれる大樹がいるから 自分は此処で平穏に暮らせている。 だからこそ恭子の云っていた通り、包容力がある彼に甘えてばかりではいられないことも····

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