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顔面を蒼白とさせながら、駆け足で僕たちのテーブルへと向かってきた大樹は僕と宏明の様子を交互に見遣ると何かを危惧していたのか、安心したような深い息を漏らしていた。 「あんた車で待ってるって言ったはずじゃ··········」 車で待っていると言った彼がわざわざ事務所内に来た意図が掴めずとも小首をかしげて大樹に問うと、尚弥の問いに苦笑を浮かべて、お得意の「すまない」と謝ってくる。 「かれこれ一時間以上出てこなかったから心配になったんだ。そしたら、入り口で兄の姿が見えて、入った途端唸り声が聞こえたから、まさかと思ってつい……」 確かにガレージでの作業を傍観していた段階で一時間以上経過していたことに気づいていたが、大樹の存在を気に掛けるのに意識が向いていなかった。 「それで、僕がこの人に襲われてるとでも思ったの?弦一さんもいるのに?」 「分かってはいるんだけど、やっぱり心配になるもんだろ?」 「別に頼んでないんだけど」 宏明の目の前であるはずなのにいつもの調子で照れ隠しからのへそ曲がりなやり取りを繰り広げていると奥から咳払いが聞こえ、今はそんな状況では無かったのだと身を改めさせられる。咳払いの正体は宏明は頭をもたげたままなので、弦一のものだろう。 「随分仲がいいんだな」 弦一によって再び張り詰めた空気を破ったのは宏明だった。少しだけ皮肉混じりの言い草が気になったが、大樹はそんな宏明の前でも丁寧にお辞儀をしては、僕との事情を報告する。 「ご無沙汰してます。兄さんには話せていませんでしたが、俺も長山の家からは追い出されました。それで今は尚弥と住んでます」

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