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力のない表情で頬を緩ませ、宏明は鼻で笑うと顔を上げた。 「切り捨てられたのか。そうだよな。あの親父が尚弥と一緒を選んだお前を許すわけないもんな」 大樹から家を出る経由を話してもらったが、息子を自分に害を与えるからと切り捨てる大樹の父親は人の親としてあまりにも無情だった。尚弥自身もあまり関わりがなかったといえども、大樹の父親には怖い印象を抱いていただけに特別驚きはしなかったが、優しかった自分の父親とは天と地の差。 宏明から呆れや諦めの様なものを感じた。 「切り捨てられたのは事実だけど、自分で選んだ道なので。俺は元々父や母が望むような芸能界や音楽に執着心はなかった。でも尚弥のことだけは譲れなかっただけです。俺は本気で尚弥のこと愛してるので。壊したいなんて思わないし、尚弥が許してくれる限り傍に居たい」 「なっ?!」 アイドルが良く言うくさいセリフは普段似合わないくせに、実兄を前にしての真剣に愛の告白をしてきた大樹にギョっとしては、顔中が火照り出す。 尚弥が言及しようとすると左肩を軽く抑えられ、口留めされたので羞恥を隠すべく、俯くことしかできなかった。 すると、向かい側から悲し気な笑い声が聞こえて顔を上げると宏明の 瞳から涙が伝い、直後に右手で覆われる。 「僕も光昭さんとこうなれたら良かったなー·····。愛してるなんて言葉で言えなかった。光昭さんは僕の気持ちを受け止めてくれても、それは僕の一方的なものだと分かっていたから。光昭さんが僕のことどう思ってくれていようと僕が光昭さんの優しさに漬け込んでたことには変わりない」 僕と関わることで父親が大切にしてきたものをこれ以上壊さないように距離を置いている。外面は暴力で強さを装っていても宏明自身の心は弱くて、弱いなりに強くなろうと葛藤しているようだった。 「本当にあなたが僕たちに申し訳ないって思ってるなら、僕に音楽で罪滅ぼしをして。そして今まで信頼を築き上げてきた弦一さんのためにも。ピアノを弾いてるあなたが好きだった父親のためにも。もう一度僕への信頼取り戻して、先生を尊敬させてよ。僕は先生のショパン、もう一度聴きたい·····」 幼い頃、父はよく宏明の話をしていたことは覚えている。父が彼へ向けた優しさが、哀れみや情けではないことは、子供ながらに感じていた。 少なからず宏明と3人でピアノを囲ったあの時間は父親にとっても楽しい時間だったんだと思う。

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