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髪の毛を梳き撫でられる感覚が心地いい。彼に最後に触れられたのは丁度1ヶ月ほど前のお墓参りの時が最後。
この時間が永遠と続いてくれたらいいのに·····と大樹の手の感触に浸っていると額を指で弾かれた。軽く頭蓋骨に響いた衝撃に顔を上げると目と鼻の先に大樹の顔があり、驚いて上半身を起こすと身体を仰け反らせた。
「いたっ。な、なに、するんらよっ」
「寝たフリしてんの、分かってんだよ」
先程、大樹と視線が合ってしまっていたのでバレていて当然だが、こうしてまた彼に醜態を晒すことになってしまった恥ずかしさを隠すための僅かな抵抗だった。
「うるさいっ」
「お前って酒弱かったんだな。俺の前では水しか飲んだこと無かっただろ」
途中のコンビニで買ってきたのか、乳白色のビニール袋から見慣れたペットボトルラベルの飲料水を差し出される。尚弥は奪うように受け取ると顔をしかめながら精一杯の力で蓋を開け、口をつけた。
自分でもここまで少量のお酒に酔うとは思わなかった。大樹を相手にしている意識はあるけど、ふわふわと気持ちが浮いたままそのまま風船のように空に飛んで行ってしまいそうな気分だ。
「だって楽しかったんらもん·····アンタが最近、構ってくれないから·····」
尚弥にしては珍しく高揚した気分から嗜んだお酒ではあるが、大樹に構ってもらえてない寂しさも無きにしも非ずだった。恋人で同棲までしているというのに、何時もの悪戯な戯れやキスはここ最近はご無沙汰だった。
お酒の力が手伝って、素直に吐露すると「すまない、研究が忙しくて·····」と何度聞き飽きたかも分からない「すまない」と言い訳が尚弥の沸点を突く。
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