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謝るくらいなら行動で示せと声を荒らげたいところだったが、やはり待っているだけではダメなのかと考えを改め直し、喉元まで出かけて飲み込んだ。 忘れてはならない。 長山大樹という人間はそういう人間だ。 大学の後輩間の中では気配りや気遣いが出来ていると慕われているが、恋人の気持ちを汲み取るのが得意では無いのか、尚弥が欲しい言葉や行動から少しばかりズレていることがある。 尚弥の屈折した言葉や態度じゃ伝わってくれない。 だから、素直な気持ちを言葉でも、態度でも示すことが出来れば大樹はちゃんと受け止めてくれるんじゃないだろうか·····。 尚弥はソファの肘掛けに置かれた彼の手に触れようと手を伸ばす。しかし、触れるか触れないかの距離まで到達した途端に、その手は本人の膝へと移り、彼は膝に手をついた勢いを借りて立ち上がってしまった。 「でも·····お前が楽しそうで良かったよ。帰ろうか。尚弥、立てるか?」 自分が触れようとした手が差し出されたが、勇気を踏み躙られたような気がして素直に手を取る気にはならなかった。 「いやらっ」 行儀悪くソファに足を乗せて、膝を抱えるとそっぽを向く。そんな前方から深い溜め息を吐かれて、イジけてしまう自分の精神年齢の未熟さに嫌になるが、今更折れることもできなかった。 「これだと尚弥姫の機嫌を取るのは難しそうだな」 自分の身勝手さに呆れられていると思えば、鼻で笑われ、思いもよらぬ言葉に火照った顔が更に熱を持つのを感じた。こんな公の場でまさか自分が《《姫》》などと呼ばれる日がくるとは、誰が思っただろうか。 大樹は時折、上流階級の王子のように扱ってくる節があったが、遂に性別まで超えてきたかと、回っていたアルコールの酔いも醒める勢いだった。 「ひひひひ、ひめっ、そっそんなこと言ったら、あんただって·····こっこんな僕をほったらかしにしたんらからっ、仕え、し、失格だろっ」 「確かに·····俺はお前の付き人にはなれないな」 「へ?」 「お前の機嫌損ねてばっかだしな。それに俺も男だから好きな人と一緒に住んでればお前に触れたくなるし、その先だって期待してないって言ったら嘘になる。でも、人一倍繊細な尚弥を怖がらせることはしたくないからあまりガッツかないようにと目を逸らして研究を言い訳にして悪かった·····」 目の前の男は困ったように左斜めに流された前髪をかきあげ、息をつく。 大樹も大樹なりに悩んで気を遣ってくれていたのだろうか……。 自ら大樹の事が好きだと打ち明け、一度だけ曝け出した欲とはいえ、その後はキスをするのがやっとで、その先へ進むことへの恐怖心は拭えたわけでもなく、逃げ出してばかりだった。 彼も彼で冗談めかして揶揄うので気づかなかったが、それが知らない間に大樹を傷つけてしまっていたのだろうか……。 普段、近づかれると緊張感から直視することがなかったキリッとした太眉に、二重の瞳は真っすぐ自分を捉えている大樹自身の優しさが滲み出ている。彼の少し哀愁の漂う表情に不覚にも胸がトクりと波打った。

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