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大樹に対して不満を抱いていたことを読まれてしまったのだろうか。 律さんであれば有り得なくもない話だった。 「律さんに言われたから僕を此処に連れてきたのか…?あんたの意志じゃないのか?」 彼の全てを受け入れるつもりで覚悟した上で大樹についてきた。 その温かい手で自分を包み込んでくれると期待して。 「さっきも言っただろ……確かに、律仁に乗せられたみたいで腹立つけど。お前に触れたい気持ちは変わらないし、四六時中尚弥とそういうことしたいって考えてるくらいだって」 大樹が振り返り、向かい合ってくると、握られた手は、彼の手のひらにのせられる。僕の手の甲を慈しむように眺め、丁寧に撫でてくると両眼を閉じて唇を寄せてきた。手の先から伝わる大樹の柔らかい唇の感触、緊張感が漂う空気の中、血液が全身を巡り、鼓動が波打つ。 僕のことを姫だなんだとおちょくっていたが、どこかのおとぎ話の王子のように、こんな事を平然とやってのける大樹も人の事が言えないが、それが自分のことを特別だと行動で示されているようで悦んでいる自分もいた。 嬉しさとむず痒い気持ちのやり場に困り、「あんた変態だろっ」と皮肉ることでなんとか気持ちを保っていると、閉じられた瞼がゆっくりと持ち上がり、左腕が腰に回ってくると一度目のキスをした。 「んっ·····」 軽いキスを何度か交わしたした後、下唇を甘噛みされて思わず身体を突き放す。このまま行けば、流れでコトに及ぶのはどうしても避けたかった。 此処に来て怖気付いたわけではなくて、尚弥なりに初めてのことなので、その時の為に恋人とのソレについて調べたからだった。当然、穢れたものとして受け入れられず見ないフリをしてきた。でも今は純粋に彼と愛し合いたいと思うから、この間の様にいちいち騒いでいるだけの自分でいたくなかった。 「すまない、ちょっと焦りすぎたか?」 途端に不安げな面持ちで浮かべる大樹は自分が拒絶の意味で突き放したのだと思い違いをしているように読み取れる。尚弥は大きく首を横に振ると、「違くて·····」と言葉を続けた。 「こういうのは·····シャワー浴びないとダメなんだろっ。僕だってお酒臭いだろうし·····」 もじもじとシャツの裾を絞るように掴んで弄る尚弥の一方で少しばかり頬を染めているものの平然としている大樹が憎らしい。

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