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見下ろしてくる大樹はとても優しい表情をして僕を安心させる。右手を恋人繋ぎをしながら彼の右手で器用に外されるシャツのボタン。全ての釦が外され、大樹によって左右の前身頃が開かれると薄っぺらくて貧弱だと自覚している上半身を晒された。 黙ってまじまじと体を眺めてくるのが、ただただ恥ずかしくて、両腕で顔を覆おうと試みたが、絡んだ指先はそう簡単に解いてもらえず、辛うじて左腕で顔を隠した。 が、ふとこれはもしかして幻滅して言葉を失っているのではないかとネガティブ思考に陥る。以前は衣類を脱ぐことはなかったので大樹の前では現状が初めて体を晒すことになる。男が初めてならば大樹の恋愛対象は異性であったことは明確で、やはり女の柔らかい胸の膨らみなどない、骨ばった男の体の違いに萎えてしまうのだろうか。 「前より肥えたか?」 「へ?」 漸く発せられた言葉は予想外の感想で尚弥は呆然としては、目尻を細めて鋭く睨む。 確かに大樹によって一日三食の健康的な生活を送れているし、今まで緩かったはずのスラックスが僅かにキツくなった感覚はしていた。 「前に体触ったとき、お前食ってんのかって心配になるくらい痩せてたろ?少し肉付きが良くなった気がして」 「誰のせいだよ…あんたが僕を肥えさせたんだろっ。こんなに僕に食べさせて、ぶくぶく太らせて豚にして食うつもりなんだろ?」 「まさか。健康的な証拠で感心しているくらいだよ。今の体の方が見ていて安心する。豚にするつもりは無いけど、肉付きがいい方が抱き心地はいいだろうな」 褒められてるのか詰られてるのか。 どういう意図で発言して来ているのかは知らないが快い発言ではないことは確かだ。その追い打ちをかけるように、肉付きがいい方が·····なんて言われたら、それでこそ、自分に女の体の感触を求められてるのではないかと思えば虚しさで気づいたら涙が溢れていた。 「え·····尚弥、なんで泣いてんだ?」 理不尽なことを受けて、感情のコントロールが効かなくなった子供のように呼吸を引き攣らせながら手の甲で涙を拭っていると、大樹が慌てたように狼狽え、繋いで絡めていた指を強めに握ってきた。

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